【町に二人。】



「ねえ、なまえ」
「なに?」

 昨日から彼は、とても楽しそうだった。特に何もしているわけではなく、今日は二人で焼け落ちた町をお散歩していただけれだれども。でも、彼の喜ぶ声が聞こえたのよ。

「僕さ、復讐しようと思うんだ」

 彼の目は、冷たく澄み渡っていた。

「そう」

 でもその心はとてもとても熱くて、燃えたぎる炎のようだった。

「普通人をね、根絶やしにしようと思うんだ」
「では私も?」

 その炎に灰も残らぬほどに焼きつくされるのは、とても素敵なことだと思う。

「ううん」
「あら」

 でもそれは私には許されないようだった。残念。

「君も、きっと超常能力者だから」
「ええ、そんな」

 それは無いだろう、と思った。私は蕾見男爵家で働く、ただの給仕係の娘だった。

「だって、君は僕の心や誰かの思いを読んでいる」
「そう?」

 そして母の仕えた先、男爵の御令嬢、御令息。彼の人らに歳が近いというだけで、遊び相手として随分と良くしてもらった。まるで兄弟か何かの様に。

「そうだよ」
「そんな、またまた」

 でも、それはあくまでも赤の他人。兄弟のように見えるという事は本物のそれではない大の証拠。私は彼らと同じ場所に立つことは許されない。そうする気さえ起きやしない。

「きっと、読心。大陸ではテレパスという物だ」
「ご冗談」

 そんな事、あってたまる物ですか。

「いいや、本当だよ」
「そう……ではそういう事にしておきましょ」

 でも、彼の指は確信していた。私も超常能力者だと、握り合った右手の指先に込められた力から、思いが伝わってきた。

「うん、だから、一緒に来ない?」
「まあ」

 なんて素敵なのでしょう。この人と同じ場所から同じ世界を見るなんて。素敵すぎて花を吐いて死んでしまいそう。

「きっと、君を命に変えても守るから」
「それは、求婚?」

 冗談のつもりだった。

「うん」
「あら」

 彼の目は、本気だった。

「返事、くれるかい?」
「そうねえ……」

 だから、私も真剣に考えることにした。この群青の瞳に映る自分の姿が揺れるのを見つめながら少しの間、静かに立ち止まって。

「どう?」
「ううん……ねえ、京介」
「なに?」

 私は、少し久しぶりにまた問うた。

「私がね、検査なんざして、やっぱり超常能力者でなく、ただの普通人だったとしたら」
「……うん」

 彼もまた、私のために立ち止まって待っていてくれた。焼け焦げた街の中に佇む二人。

「あなた、私をちゃんと殺せる?」

 少し意地悪かと思ったけれど、聞いた。これは私にとっても、彼にとってもとても大切なことだったから。

「もちろん」

 彼の目は、澄んだ海色をしていた。

「よかった」

 それが返事であって、彼と私を縛る約束でもあった。もし、本当に私を殺したとすれば、きっと彼もまた一緒に死ぬのだろうな。





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