【ふう】


「……はあ」
「あ、ぐすっ、ぐす、うぅ……」

 父の命で、僕は試験号をそのまま自室へと持ち帰った。勿論、ただの地下室では無い。ユーリが去った事で僕に与えられた研究室だ。あんな所に戻ってなるものか。幽閉されるためだけの、窓の無い、いつでも薄暗いあの様な埃っぽい空間はもう沢山だ。

「ふむ……」

 試験号の身体年齢は約10歳前後。現在商品として使用している洗脳エスパーの平均年齢に合わせてみたのだが、思っていたよりも扱い辛い。コレが正常な子供ならばまだ良いのだが、如何せんそうではないのだから困る。
 この手足の長さは持ち運ぶ際にも少々不便があった。抱えようとすれば暴れて顔を引っ掻いたし、背中に乗せた時にはあまりの重みに変な声すら出た。
 僕の虚弱体質をあまり舐めないで貰いたい。結局は台車に乗せて運んだ。それらを踏まえて考慮すると、次に作成するであろうプロトタイプは5歳位が良いだろう。手足もそこまで長くないし体重も軽い。改良点その1。

「うぇええ……うううぅう……」

 骨と皮の様な見た目だけで分かる身体能力の低さは、運動させる事でクリアするか。せめて歩行が可能ならば、先程のような苦労も無いだろう。培養器内での成長過程に応じて電気刺激を筋肉等に与えてみる事にする。おそらくそれで解決出来る筈だ。電気量など方法の詳細は要研究。改良点その2。

「何を泣いてばかり居るのだか」
「ひっく……うっく……」

 生まれたばかりだというのに、そんなに悲しい事でもあるのだろうか。……ああ、あるか。お前は、こんな世界のこんな場所に生まれ落ちた事で、どう足掻いても不遇となるであろう運命を背負ってきた。それは、まあ、泣きたくもなるだろうな。
 そうだ、先ずは言葉を覚えさせようか。意思疎通が出来ねば命令どころか何も始まらない。ここには様々なエスパーが居る。事前に開発していたらしいESP学習法で恐らくそれはすぐにでもどうにかなるだろう。

「ほら、飲みたまえ。僕が手ずから作った物だ」
「んぐっ、んぐっ……」

 さすれば、少なくともこの子守り状態からはどうにか解放されるはず。そう、この僕が温度計と睨めっこしながら粉ミルクを哺乳瓶に注ぐような、そんな頭を抱えるような事態からはきっと好転するだろう。
 ……あ、改良点その3。内臓にもどうにかこうにかして、出てくる頃には最低でも離乳食くらいは食べられる状態にしておかねば。粉ミルクは、もう、見たくもない。





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