【ひい】


「どうしましょうか、父上」

 僕は、父上の部屋に居た。室内はアンティーク系の調度品に溢れていて、品よく彫刻で花々の施された柱時計が尖った音で時を刻んでいる。ふむ。父の部屋はこの様な場所だったのか。この僕の居た地下室とは大違いだ。
 ああ、こんな所、入った事すら一度もなかった。この部屋の燻った木の様な香り。濃い目の色で纏められた木製の家具。そして、幼い頃最後に見た時よりも年老いた父。全てが全て初めて経験する物だ。つい数ヶ月程前までの屋敷の地下に幽閉されていた時とは考えられない様な状況と言えるだろう。

「びぇえええ!!」

 問題はこの試作号、か。

「……これはテストタイプだ」

 父上が赤子の様な、否、赤子そのものの泣き声を無視して静かに語りだす。

「はい」

 僕も、父上の言葉に耳を傾けた。やはりソレの泣き声を無視しながら。

「あぁああああん!!」
「はーい、よしよしよし、ほーら、ほら、いないないば〜〜」

 テオドールは、会話を続ける主とその息子を尻目にガラガラを振っていた。

「次の生産には資金がまたかかる」
「はい」

 確かに父上の言う通り、大量生産出来るようになればまだしも、今の一体一体のテスト段階ではかなりのコストがかかる。

「う、ぁああああん!!」
「ほーら、わんわんだよ〜、ほーらほら、わんわん!」

 そして、この様な状態ではすぐに任務へと投じる事も出来まい。だのに維持費ばかりは嵩む。こんな不良品を何度も生み出していては、それこそ金を溝に投じるような物だ。幾ら黒い幽霊の資金源が豊富だとしても、それではあまりにも金を掛ける価値を見い出せない。

「だからお前自身がしばらく面倒を見ることで、その欠陥の全てを書き出すように」

 一先ず解剖なりして体内の欠陥を調べる事から始めたほうが良さそうだ。今背後でテオドールの頭をしゃぶっているアレは、手足は細く脆く、栄養吸収も悪い様に見える。まずは自分やソレの様なのとは違って健康体を生産できる様に……ん?

「……は、え?」

 待て、今父上は何と言った?

「う、うえ、げほ、けほ……」
「あ、何!? 喉に何か詰まったの!? え!? あれ? あえ!?」

 僕に、アレの面倒を見ろだって?

「耳くらい使えるようにしておけ、役立たずめ。改良すべき点を全て見つけろ、それが次のお前の任務だ」

 どうやら不幸な事に、聞き間違いでは無かったらしい。欠陥品を次に最大限に活かす事をお望みの父は、実に真剣な目をしていた。

「……はい、父上」

 ああ、父上のお役に立てるならば、僕は子育てでも何でもやってやろうではないか。僕は役立たずではない。役立たずのクズのまま終わってなるものか。僕は、父の元を去ったあの忌々しく愛おしくてたまらない妹よりもずっとずっと、有用な道具になってみせよう。

「ん、うぁあああん!!」
「あ、噎せただけ? なんだ、よかっ……よくない! ほら泣きやんで、お馬さんだよ〜 パッカパッカ〜〜」

 だからアレには僕の踏み台という大いなる役目を果たして貰おう。役立たずになんか、させる物か。





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