【夢】


 そうして歌仙兼定は、これから孤独の100年を送ることとなった。

「主はまだか」

 簡単だ、なんて思っていたものの、それは見当違いだったようだ。否、今までの彼だったのならば確かに、少し目を閉じる間に100年など去っている様な心地で100の年月を過ごせたのだろうが、今の彼は違う。彼は仲間を、主を、目的を、そして体を持ってしまっていた。神の身で過ごす100年と、人の身で過ごす100年は雲泥の差と言えよう。

「主はまだか」

 だから彼は、その主の帰りを今か今かと待ち焦がれ続ける事となっていた。

「……主はまだか」

 人の身を持ったが所以に、手入れ位は自分で出来る。これで錆びる事も無いだろう。だからすぐに帰ってきても良いのだ、審神者よ。

「主は、まだか」

 空が青い。先ほどまでは橙の色をしていたというのに。焦がれる間に早くも一年が過ぎていた。これが後99回もあるのだと思うと中々に身に堪えるぞ、審神者よ。

「主はまだか……」

 歌仙兼定は計算ごとが苦手だ。だから今が何年かはもう分からなくなってしまっていた。しかし再会した丁度その時が100年なのだから何の問題もない。早く帰れ、審神者よ。

「主は……まだか」

 料理は得意だから、人の身へ与える飯も自分で何とか出来る。しかし一人の食卓というのは中々に辛い。二人、いや、他へ行った刀共も集めて何十もの大人数での食事を、君が帰ったら行おう。それだけで大宴会だ。君が帰ればまたそんな日々を送れるのだと思うと心が浮足立つ思いである。どうか可及的速やかにこの雅有るまじき心を治めてくれ、審神者よ。

「主は、まだ……か」

 ああ、審神者よ。自分はいつまで待てば良いのか。100年はまだか。君に会えるのはまだまだ先か。空の色はくるくる移る。なのにまだか。主は、まだか。もしかして君は出鱈目を言ったのでは無いか。意地悪を言って僕を弄んだのではないか。これは幾らなんでも苦しすぎるぞ、審神者よ。

「主」

 ああ、主はまだか。審神者、審神者。早く。早く帰れ、審神者。

「主よ……」

 歌仙兼定一人の本丸の上で空は回る。くるくる、くるる。目まぐるしく。くる、くるる、くるるるる。





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