第一部 [7/32]


『ん、ぁ…?』

カタカタと音のするこの部屋は、確かに自分の部屋でないとすぐ頭が理解した。

昨日のことを思い出そうと、まだ眠たいと訴える重たい頭を働かせる。
そういえば、昨日は検査途中に涅隊長からプレゼントだと薬品を注入されて、そのまま寝てしまったんだった。



「ようやく起きたのかネ。あと少しゆっくりしてくれていたら解剖実験ができていたのに、つまらないヨ」

頭上から不気味なことを言われてゆっくりと視線を上げれば、この実験の結果が書かれているのか、長い長い紙をさらさらーっと読んでいく涅隊長がため息をついていた。
近くには副隊長さんも阿近さんもいてカタカタと機械に打ち込んでいた。



「思ったより効果がないネ、期待はずれもいいとこだ。ネム!」
名前を呼ばれた副隊長さんは特に命を受けたわけじゃないのにはい、と小さく返事をしただけで、黙々と自分に取り付けられている管や機器類を外していく。
そして、そのまま隊長と共に部屋を出て行ってしまった。



「隊長はああ言ってたけど、多分お前にとっては効果があっただろうよ」
涅隊長から受け取ったあの長い長い紙を読みながら阿近さんが近づいてくる。

何を言っているのか分からないが、実験のせいか体の節々が痛い。
なんかいつもの検査と違ってだるさも強いな。

とりあえず顔を洗って来い、と言われたから近くの手洗い場で顔を洗えば、少しだけ眠気とだるさが和らいだ。
手ぬぐいで水気を拭き終わって鏡を見た途端、自分の目を疑ってしまった。

目の前は鏡のはずだから、写っているのは確かに自分の姿。
少し大人びたような自分の顔はほんのわずかだけ女らしさのようなものを感じる。
ぺたりと自分の顔と、目の前の鏡に手を置いた。
触っているという感覚は本物で、頬をつねればちゃんと痛みを感じる。
でも、いつもの自分の顔じゃないのは確か。
どうしてこんなこと、と思ったが、思い当たる原因はひとつしかなかった。



『阿近さん!昨日涅隊長が使った薬品はなんですか?』
少しだけ急いで、阿近さんの所へ戻って聞いてみれば、自分の声がいつもより気持ち高く聞こえたような気がした。


「細胞活性、ホルモン分泌促進、筋肉増強が少しとその他もろもろがたっぷり入っていた」
ほかにも入っているが…、と淡々と答える阿近さんは、こういった事になれているのか、驚いた様子は見られない。

『…』
「そのおかげで体が成長してる。多分それが年相応の体格だろうな。
…にしても、女にしちゃちょっと硬そうだな」
鍛錬のしすぎだなと言いながら顎を持ち上げられて自分の眉間にしわが寄る。
鍛錬にしすぎなんてことはない。
むしろやってもやっても足りないくらいだ。



『業務があるので失礼します』
あの隊長が作る薬ならどうせすぐには戻らないだろうし、ここにいるより今日の分の事務作業や十一番隊のみんなと木刀を打ち合ってるほうがいい。

阿近さんの手から離れて一応お辞儀をしてから十一番隊隊舎へ向かった。





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