第一部 [5/32]
『いつつ…』
一角との勝負が終わり、上も下もまんべんなく大小様々にできた傷を消毒しながら、かんろは僕の隣で眉をひそめていた。
その瞳からは鋭い光がすっかり消えていて、気だるそうだが、本人はどこか満足げ。
一角にボロボロにされていてもだ。
負けたとしても、満足いくまで木刀を振ることができたのだろう。
どこかすっきりしたように見えるかんろの顔は美しい。
「なあかんろ、お前今日の飲みには来るのか?」
手当を終えて立ち上がったかんろに、どかっという効果音がつきそうな勢いで肩を組んできた恋次。
しかしよろけることも恋次を気にとめる事もなく、かんろは隊士たちの使った木刀を片しに歩き続ける。
『残念、先約があるんですー』
「またかよ、お前前も来なかっただろ。付き合いわりぃぞ」
恋次とは反対の方から、がしがしとかんろの頭を乱暴に撫でる一角。
『前回は違う用事だったのでしょうがないですー』
恋次と一角に挟まれているかんろはその小ささから、今にも二人に押しつぶされそうに見える。
本人は二人を見上げるのが嫌なのか視線を合わせていない。
十一番隊の隊士たちは皆今日の飲みに参加するはずだから先約とやらはほかの隊の人だろう。
「で、誰と約束してんだ?」
『十二番隊』
恋次の問いに一瞥してからさらりと答えたかんろ。
木刀を所定の位置に運び終えて、二人の驚きの顔なんか気にせずにかんろはすたすたと稽古場を後にした。
いつの間にか日は傾いていて、今日の業務の終わりを告げていた。
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