第一部 [4/32]


それからしばらくの間、木刀での攻防を繰り返した恋次とかんろだったが、本人たちも周りの隊士たちもこの時間を長いとは思わなかった。
かんろの流れるような木刀の動きに弓親は美しいと感じ、一角は二人の楽しげなその戦いに自分も混ざりたいと思った。



ゴクリ。

さっ、と間を取ったかんろが唾を飲み込み、真っ直ぐに恋次を見つめる。
息は上がっていて、その顔には汗が見える。
対して恋次は、少し息は上がっているが、特に気にもとめずにかんろに向かっていく。



カランと弓親の足元に落ちた木刀。
どちらが勝ったかなんて見なくてもわかった。
いつも結果は同じだから。

必ずかんろが恋次に木刀を飛ばされて、その首元に木刀の先をつけられる。
「今度はしっかり持っとけ」
恋次にいつもの台詞を言われたかんろは、僅かに俯き気味にありがとうございましたと小さく言う。



そのまま弓親と一角のいる方に歩いてきたかと思えば、弓親の足元に落ちた木刀を拾いながら小さな舌打ちをして筋肉バカなんて小さく毒を吐く。

その声が聞こえるのはすぐ近くにいた弓親だけ。
ちらりとかんろの顔を見れば、その表情は既にいつものだるそうな目だったが、まだどこか鋭い光を持っていた。
きっとまだやり足りないんだな、と弓親が思っていると、今度は俺とだ、と既に立ち上がって稽古場の真ん中に向かって歩いている一角が言う。

おす!と張り切ったようにかんろが返事をして、死覇装の袖を肩まで上げていた。
首元に巻いていた、浅葱色の薄い襟巻きをさっと外すと、それを使い、肩まで上げた袖が落ちないようにたすき掛けをする。
顔を伝う汗を手ぬぐいで拭いてからふう、と一息ついて、かんろは恋次のときと同様、班目の懐へ飛び込もうとしていた。



「いいなあ一角さん」
ようやく火のついたかんろとやるんすよ?、なんて羨ましそうに言いながら、恋次が弓親の方に向かってきていた。
「ありがとうございました、なんてあいつが言わなきゃ、まだ俺がやっていたのになあ」


二人の戦いを羨ましそうに眺めながら水を飲む恋次をちらりと見て弓親は小さく息を吐いた。

かんろはいつも恋次とひと勝負してから一角と勝負する。
いつもの事なのに、毎回毎回同じように二人の勝負を羨ましがる恋次の思考は、これっぽっちも美しくないと思ったが、いつものことでしょ、とだけ言って弓親はかんろの太刀筋を眺めていた。




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