第一部 [31/32]


「馬鹿かよ…」
木刀と素手のぶつかる音のしていた稽古場はシーンと静まり返り、一角の口からポツリと発せられた言葉に反応する者は誰もいなかった。



*****



休みなく攻撃を繰り返すかんろが、一角の振るう木刀をひょいひょいと躱しながら反撃を試みて蹴り上げた足は、あっさりと受け止められてしまう。
だがかんろは悔しさを感じていなかった。
その光り輝く瞳は真っ直ぐ相手を捉え、赤みの指してきた顔はさわやかな汗が流れていた。

笑みを浮かべているわけではないが、食事の時とは違う、その楽しそうな表情を逃してはいけないと、修兵はどこからか取り出したカメラを手にふたりの稽古の様子を撮っていた。

次の攻撃をどうするかなどと頭が考える前にかんろの体はすでに次の攻撃へと体を動かしていた。



かんろの蹴りを受け止めた一角の木刀を動かせないように足で床に踏みつけた。
その足を軸にしてもう片方の足で回し蹴りを入れる。
入った、と思ったが、一角はかんろの蹴りを自身の腕で防いでいた。
そしてかんろに踏みつけられている木刀を、一角が力ずくで持ち上げると同時にかんろは飛び上がった。



『ひゃ!!』
かんろが飛び上がったところまではよかった。
失敗といえば、かんろが着地した場所だ。
すたっ、と綺麗に着地したところには汗のような雫が落ちていて、その上に着地したかんろの足は、それはそれは見事に滑った。

ずてん!と背中を床に打ちながら倒れたかんろに驚きながら、一角は恐る恐る近寄った。
そろりとのぞき見れば、背中と一緒に頭も床に打ってしまったのか目を閉じたまま伸びてしまっていた。





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