第一部 [30/32]


「やっと追いついた」
はあはあと息が荒くなっているのは、かんろの稽古の様子を見逃さないように走ったから。
開きっぱなしの稽古場の扉近くに落ちていたかんろの襟巻きを拾い上げて、倒れている隊士達を横目に中へと入っていく。



既に稽古は始まっていて、修兵が目にしたのはかんろが一角に吹き飛ばされた瞬間だった。
これまでも一角に吹き飛ばされたことのあるかんろは吹き飛ばされることに慣れたのか、吹き飛ばされた先にある壁に足をついて体勢を立て直すと同時に、その壁を力強く蹴って一角へと向かう。

しっかりと握っている木刀を構えれば、一角もそれを受け止めようと構えた。



『あ』
壁を蹴った勢いでそのまま一角の木刀とぶつかると思っていたかんろは、若干距離が足りないことに気づいて思わずまぬけな声が出てしまった。

どうしようかと考えるわけでもなく、自分の木刀が相手に届かないと理解すると同時にかんろは持っていた木刀を口にくわえる。
そしてそのまま体勢を変えて両の手を床につく。
すぐに、自分に向かっていた一角の木刀を、勢いを乗せた足で踏みつける。

ダンっ、と大きな音を立てながら床に打ち付けられた木刀は床に深い傷を付けた。
起き上がりながら口にくわえていた木刀を掴むと、振り返る勢いに任せて一角に向かって木刀を振るう。
しかし、それは一角の手によって簡単に受け止められてしまった。


木刀をつかみながら、かんろが振り返ることによって、その足から解放された木刀を下から上へ振り上げる。
その切先を避けるために後ろへ下がろうとするが、一角がかんろの木刀から手を離さないために後退することはできなかった。

ザッ、と目の前を通る木刀がゆっくり動くように感じた。
首から上の、唯一動かせる部分を、首をかしげるように動かして木刀に当たらないようにしたが、唇の端と鼻先に少しかすってしまった。
自分の木刀を放してくれそうにない一角の手をちらりと見たかんろは、木刀を諦めて手を離し、一旦後ろへ飛び退いた。

ペロリと口端から流れる血を舐めるかんろと、楽しそうな笑みを浮かべながら木刀で肩をとんとんと叩く一角。
瞬きをすることさえ惜しい2人の稽古を食い入るように見ていた修兵は、ゴクリと生唾を飲んだ。



「そろそろ身体も温まってきた頃だろ、かんろ。この木刀返してやろうか?」
ニヤニヤと嫌な笑みで声をかける一角に、かんろはいりませんと即答した。

『一角さんはいつも剣とさやで戦っているのでそのままでいいです』
かんろのその言葉に一角はじゃあお前はどうするんだ、と疑問に思う。

『自分、斬術だけじゃなくて白打も鍛えたいんですー』
すっ、と構えながら言うかんろに、一角は口角を上げた。




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