第一部 [29/32]


「じゃあ、次の質問な。かんろの出身は?」
『覚えてないですー』

次の日、朝から十一番隊にやってきた修兵は、既に書類をやり始めていたかんろの机の前に座って質問攻めをし始めた。
同じく書類をやっている弓親は少し離れた机でふたりの会話をラジオやBGMのように静かに聞いている。



「そうなのか。それじゃあ、次!休日の過ごし方は?」
『休日…』
それまで休まず筆を動かしていた手が止まる。
淡々と質問と回答が続いていたから、その流れが止まって修兵が不思議そうに顔を上げた。

『あれ、弓親さーん、自分、休日ってありました?』
「は?」

「かんろの休日かい?確か、君が休みなんかいらない、って言っていたじゃないか」
休みがあってもどうせ稽古場にいて木刀を振っているからあってもなくても一緒だ、ということで、いつの間にかかんろの休みは消えていた。

『あー…そうでしたね。ということで、休みがないのでわかりません』
「まじかよ!休みなしで大丈夫なのか?」
『意外と大丈夫なんですよ。十一番隊だから急ぎの書類はあまり来ないし、休みをもらうより剣を振ってる方が楽しいですよー』
「そうなのか、まあとりあえず休みがないとは書けないから休みの日も鍛錬って書いとくな」
さすが十一番隊だな、と苦笑いをしながら呆れたように言う修兵に対して、呑気な声ではーいと返事をするかんろ。



次の質問を確認しようと、修兵が手元の資料をめくっていると、廊下をどかどか歩く音が執務室に近づいてきていた。
「かんろいるだろ!お前阿散井と代わって俺の相手しろ!」
勢いよく戸を開けたのは一角で、朝から恋次と稽古していたはずなのにその顔はイライラしているように見える。
ずかずかと部屋の中に入ってくれば、ずいっ、と何かをかんろの前に突き出した。

「…よお」
『お疲れ様です』
一角が突き出したそれは、彼が一緒に稽古をしていた恋次だった。


苦笑いを浮かべるその顔にはいくつかの痣を作っていた。
「大丈夫か、その痣」
稽古もすげぇな、と若干引き気味に言う修兵に、一角は鼻で笑った。

「十一番隊がそんな間抜けな怪我するかよ。そいつはな、勝手に自分の袴で躓いて勝手に転んで痣作ったんだよ」
そのまま掴んでいた手を離せば、どさっと恋次が床に落ちた。


「阿散井、てめえは今日一日その腑抜けが治るまで書類の相手してろ!こい、かんろ!ぶっ倒れるまでやるぞ!」
『え!待ってください一角さん、この一枚だけやらせてください!』
「書類なんかいいんだよ!文句なら弁当がどうのこうの言ってた阿散井に言いやがれ!」


一枚だけ、と懇願するかんろを無視して、一角は先ほどの恋次を連れてきたようにように死覇装の襟を掴んでかんろを稽古場に引きずっていった。
いきなりの展開でついていく事のできなかった修兵は、弓親に声をかけられて慌てて二人の後を追いかけた。



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