第一部 [28/32]


トントンとリズムよく包丁とまな板が当たる音が、とても心地よく感じる。



家に着くやいなや、既に腹が減っていたかんろは、途中で買った食材を恋次と修兵から受け取って夕飯作りに取り掛かっている。
手を動かしながら、部屋の入り口でもたもたしている二人に適当に座っているように声をかければ、二人は部屋にぽつんと置かれている机の周りにぎこちなく座った。



しばらく続いた包丁の音が止まったと思えば、ゆっくりと食欲をそそるようないい匂いが部屋に広がる。
最後のひと品を作り終えたかんろが、山盛りの青椒肉絲が乗った皿を持ちながら恋次達の待つ部屋にやってきた。


「おお!」
「すげえ!!」
コトと皿を机に置けば、机の上に並ぶ料理を見て二人が感嘆の声を上げた。

『ご飯、たくさん炊いたのでお好きにどうぞ』
机の端に炊きたての飯を入れたおひつを置きながらかんろが言う。
既にその手には自分のための茶碗に山盛りに乗せられたご飯があり、飯をよそうところから各自自由にやってくれ、いうことなのだろう。
かんろは一人で手を合わせながら頂きます、と言えば山盛りの飯を食べながら、皿に取り分けたおかずを黙々と食べ始めた。



『…食べないのですか?もしかして苦手なものでもありました?』
かんろがはじめの飯を食べ終わり、おかわりをしようとおひつに手を伸ばしても、未だに動く気配のない二人に話しかけた。

「いや!そうじゃねえよ!すげえうまそうだ!!」
「そうだ!お前の食べっぷりに驚いただけだ」
ほら食おうぜ、と言う修兵の言葉に同意した恋次は、近くにある料理に手を伸ばし口に運ぶ。
すぐにうめえ!と大きな声を出して目を輝かした。

「マジかよ!かんろ、俺にも飯をよそってくれ!」
ずいっ、と目の前に差し出された茶碗におひつから飯をよそって修兵に差し出せば、恋次と違ってきちんといただきます、と言ってからおかずに手をつけた。

「本当だ!うまいな!これならさ、明日からも俺が材料代払うから、出来合いの飯じゃなくてかんろの手作りにしようぜ!」
な!と笑顔を向ける修兵に、かんろは悩む様子もなくいいですよ、と返事をした。

「檜佐木さん、それずるいっす!なら俺も材料代出してかんろの飯食いてぇ!」
かんろと修兵の会話を聞いていた恋次はもぐもぐとおかずを口に入れたまま机の上にだんっ、と手をついて喋り出した。


『ほんとですか!?』
なぜか嫌そうな修兵とは違い、嬉しそうなかんろにはさすがというべきか、やはりというべきか。

『自分、食べるのも好きなんですけど、作るのも好きなんです!それにたくさん作るほうが美味しいんですよね!』



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