第一部 [27/32]


「檜佐木さん遅いなー」
『まあ副隊長だから忙しいんですよ、きっと』
稽古場の外に飛ばされたかんろが、死覇装についた土を払いながら起き上がれば、建物内では飽きたように木刀を首の後ろに回して持っている恋次の顔が瞳に映る。



修兵が十一番隊を出たのは、一緒にたい焼きを食べたすぐ後。
今日の夕飯から一緒に食べることにした二人は、十一番隊で待ち合わせをしている。

あれからすぐに仕事を終わらせてしまったかんろが、ちょうど書類の配達から帰った恋次と共に稽古場に向かってから1時間は経っているだろう。
休憩を入れずに打ち合いをしていたからか、息が上がり始めている。



「何だお前らこんなところにいたのか」、
熱心だな、と言いながら稽古場にやってきたのはかんろと約束をしていた修兵だった。

「檜佐木さん!っと」
『もう少し待ってください。これが終わったら自分の家で夕飯がいいです』
遅くなって悪い、と謝りながら稽古場に入ってくる修兵の言葉に反応した恋次が一瞬気を抜いたところを見逃さず、かんろは木刀を容赦なく振る。
少しよろけた恋次の方からちらりと修兵の方に視線を移してかんろが少し早口で伝えると、すぐに体制を立て直した恋次へと向かっていった。



*****



「立てるか?」
修兵が上から覗くように声をかけるのは、恋次からの攻撃で吹っ飛ぶように床に転がったかんろにだった。
『…大丈夫です』


結局勝つことができなかったかんろは少しむくれながら、差し出された修兵の手を取って立ち上がった。
「この間の一角さんへの一撃はまぐれだからなー」
奥の方で木刀を片しながら恋次がぼそりと呟けば、聞こえていたかんろの眉間にさらにしわが寄る。

「まあまあ、それよりさっき言ってたが、夕飯はお前の家でいいのか?」
『はい!家の方がたくさん食べられるから修兵さんが良ければ自分の家がいいです!』
眉間のしわはどこへいったのか。

夕飯の話題になると楽しそうに話しだしたかんろに驚いた修兵。
何かを言おうとしたのか口を開こうとすると後ろから大きな声が届く。
「かんろの手料理!?それ俺も食いてえ!」
どかどかっと大股で近寄ってくる恋次の顔は、わくわくしたような表情で、特に断る理由のないかんろはどうぞ、と返事をしていた。



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