第一部 [26/32]
ところ変わって十一番隊。
稽古を終えた一角が、机をどけて畳の上にごろりと寝転がって寝ているのを気にせずに、弓親は書類に向かっていた。
給湯室から出てきた恋次の持つお盆の上には、三人分の湯呑と茶菓子が乗っている。
すー、と静かに開かれる戸。
開けたのはかんろで、彼女が部屋に入ってくるのに気づいた恋次は出迎えようと、弓親たちの方から視線を動かした。
『ただいま戻りました』
「よ!お邪魔するぞ」
「檜佐木さん!」
かんろの後ろで片手を挙げる修兵へ近寄る恋次に、すっと差し出された包。
それを受け取ると、ふわりと香る自分の好きな香りに恋次は顔を輝かせた。
「たい焼きっすか!」
「おう!手土産だ」
今にも一人で食べ始めてしまいそうな恋次を横目に、かんろは弓親の前に座って十番隊でのことを話していた。
『…というわけで、しばらく十一番隊に出入りするそうです。隊長には檜佐木さんがすでに伝えてます』
「隊長が許可したなら僕は構わないよ」
「呆れるくらい食いもん好きだな」
もそりと起き上がりながら、本当に呆れたように一角が言う。
『いいじゃないですか別に。食べることが好きなんですから』
かんろはほんの少しだけ眉間にしわを寄せていた。
その目の前、弓親の机の上にコトっと皿が置かれた。
3個のたい焼きが乗った皿を机に置いたのは恋次だ。
「まあまあ、そんなことより檜佐木さんからもらったたい焼き食いましょうよ」
まだ温かみのあるたい焼きをがぶりと食べながら笑う恋次は、ほらよ、とかんろに湯呑を渡し、もうひと皿、修兵の分のたい焼きが乗った皿を茶の入った湯呑とともに修兵の前に置いた。
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