第一部 [23/32]


後ろに下がったのが悪かったのか、はらりと床に落ちるのは白い布切れ。

ふたりの様子を見ていた恋次も、木刀の先を床につけたまま動かない一角も、さらには死んだように転がっていた隊士たちも、落ちた布切れの上…かんろの胸元から視線を離さなかった。



ドガッと鈍い音がした。
突然のように稽古場の床に倒れる一角と、スタッ、と軽い音を出しながら再び地に足を付けるかんろ。
状況がよくわからない者も何人かいただろう。

しかし恋次はしっかりと見ていた。
皆が止まったその瞬間、一角の大きな大きな隙を見逃さないかんろが握っている木刀ではなく、自分の足で一角を回し蹴りした。
しっかり入ったその蹴りで一角は床に激突し、一角の剣先に触れた自分のサラシが落ちるのも気にせず、かんろは一角に一発食らわせたことに堂々と胸を張っていた。


「ばっ…!前くらい隠せ!」
はっと気が付くと、恋次は自分の横に置いていたかんろの死覇装の上着と襟巻きでかんろの胸元を隠しに走った。



『一角さんも同じじゃないですか』
あーだこーだ、とうるさい恋次を怪訝そうに見ながら、押し付けられた服を着ると、既に起き上がっていた一角のもとへと向かった。

『一角さん、一発入れたご褒美にご飯おごってくれませんかー?』
初めてだからお願いします、とかんろは手ぬぐいを渡しながら言った。
十二番隊の薬のおかげで成長し始めてから特に食欲のあるかんろは、このままでは食費が危ういことになりそうになっていた。


「…今日だけだぞ、ちょうど飲みに行くしな」
ふうと小さなため息をついて一角は受け取った手ぬぐいで汗を拭った。
その様子を見てかんろはにっこりと笑った。
『はい!ありがとうございます』



「あいつ、笑うんだな…」
一角はいつの間にか隣に立っていた恋次と、とたとたと嬉しそうに稽古場から出て行くかんろの後ろ姿を目で追いかけていた。





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