第一部 [21/32]
「僕はね、美しいものが好きなんだよ」
醜いものを見るくらいなら、僕は視界を閉じるよ。
たとえ死ぬとしても。
ゆっくりと、独り言のようにつぶやきながら酒を飲む弓親をちらりと見てお猪口を仰ぐ一角。
「かんろが酔った時は、美しかったのにそれを美しいと素直に思えなかったんだよね」
徳利からお猪口へ酒を注ぎながら、不思議だよね、とこぼす弓親に、それまで黙っていた一角が口を開いた。
「ぐちぐちとらしくねぇな、弓親。ようはあれだろ?兄弟が兄弟離れしたとか、子供が嫁いじまった的なやつなんじゃねぇの」
うちの隊の中じゃ俺の次くらいになついているもんな、あいつ。
見ることのなかったかんろの酔う姿が見れたのに、それが三番隊のやつと仲良しこよししているのを見て、どうせ寂しくなっただけなんだろうが。
ぐいっ、とお猪口ではなく酒瓶ごと持ち上げて、酒を喉に流し込む。
そして目の前の男を見れば、いつもどおり落ち着いた表情で静かにそうか、と呟いていた。
「ありがとう、一角。やっぱり飲むならキミとが落ち着けるね」
すっきりした顔で満足げな弓親は、日が変わるまでいつものように静かに一角と酒を交わした。
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