第一部 [20/32]


太陽が沈み、月が静かに隊舎内を照らし始める頃。
室内で書き物をするには灯りを灯す必要があり、かんろもゆっくりとロウソクに手を伸ばしていた。



一角にどやさながら隊舎に戻ってきたかんろは、溜まっている書類の量に驚いた。
一足先に書類と向かっていた弓親に戻った事と、遅れてしまったことに対しての謝罪をひとこと言ってから、自分も机に向かい溜まった書類に取り掛かった。



*****



食事休憩をしている暇などなく、かんろは目の前に広がる書類と戦っていた。


「お疲れ様。ご飯くらい食べてきたら?」
昼も食べてなかったろう、と弓親はかんろに握り飯の包を差し出した。
まだ暖かさの残るそれは、先ほど他の隊士の様子を見に行くと言って出て行った弓親が、わざわざ買ってきてくれたものなのだろう。

『あ、ありがとうございます』
ちょうどお茶を淹れようと思っていたかんろは、弓親の分も用意してから、もらった握り飯を口にした。


いつも用意している握り飯とは違い、標準サイズのそれを一口かじる。
中に具は入っていない塩握りだが、塩加減がいい塩梅であっという間に一つ目を食べ終えてしまい、次々に握り飯を口に運んでいく。

「いつもの事だけど、結構な量食べるよね」

机に肘をついて、かんろが握り飯を食べる様子を見ていた弓親は、思い出したかのように言った。
『食べることが好きですから』
じっ、と弓親の顔を見つめながら答えるかんろは、いつもよりしっかりとした目をしていた。


ドキリ。

普段は見せることのないその顔に、弓親は見入りそうになった。
「…君、稽古以外でもそんな表情するんだね」
言いながら弓親は、かんろの口元についている米粒を取った。
そのままかんろの口に押し込む。
「いいね、その顔」


くちゃ、とかんろの口の中にある指を動かせば、かんろの肩がピクリとはねた。
『ゆみ…ひははん、っ』
眉を寄せながら、口から指を抜かない弓親を見れば、ごめんね、と言いながら彼はすぐに指を抜いた。



「おい弓親!いつまで残ってんだよ!」
ばん、と大きく開かれた扉の向こうには一角がいて、死覇装の隙間から腹を掻いていた。
「飲みに行くって言っただろうが」
「ああ、ごめん。今行くよ。 じゃ、また明日ね」
「お前も早く帰れよ、かんろ」

ぽん、とかんろの頭に手を乗せて立ち上がった弓親は、ひらひらと手を振りながら一角とともに隊舎を出て行った。





− 20 −

prevnext

bookmark

back



▲top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -