第一部 [18/32]


バタン、と大きな音が室内に響く。
不思議そうに、乱菊とかんろが音のした方を見ると、そこには隊首室の床に倒れているイヅルの姿があった。
彼の鼻からはつー、と鼻血が出ている。

「かんろったら、だいたーん」
未だ楽しそうな乱菊を見てかんろは、本当にのんきな人だ、と思っていた。
「別にただの人の体じゃないですか。見られて減るもんでもないですし大げさな…」

乱菊が上から退いてソファに座りなおすと、かんろは立ち上がり、イヅルに近寄った。



『吉良さん、大丈夫ですか?』
ソファの上からイヅルの様子を見ている乱菊に問えば、ダメかもと笑いながら答えられた。
確かに、鼻血の勢いは落ち着いているが、本人は一向に起きそうもない。

「ねえかんろ、このあと用事ある?」
『いえ、隊舎に帰るだけです』
かんろの言葉に乱菊がにっこり笑う。

「じゃああんた、吉良のこと四番隊に持って行ってちょうだい!」
なんで自分が、そうかんろが言おうとしたとき、隊首室の戸が開いた。
開けたのは十番隊隊長 日番谷冬獅郎。
眉間にしわを寄せて乱菊と隊首室の様子を見ていた。



「松本、俺が帰るまでに終わらせておけって言ったよな」
ヒヤリ。

冬獅郎が乱菊たちをひと睨みした途端、室内が雪国のように寒くなっていくような気がした。

「今やろうとしていたところなんですよー」
珍しく乱菊が机に向かう様子を見てため息をついた冬獅郎は、床に倒れているイヅルに視線を向けた。


「んで、吉良はどうしたんだ」
『えっと…急に倒れてしまいまして、自分がこれから四番隊に連れて行くところです』
失礼しました、と一言残して、かんろはイヅルを背負いながらそそくさと十番隊隊舎を後にした。



*****



乱菊が自分にイヅルのことを任せたのは、隊長にうるさく言われないためだったのか、と思いながら、かんろは四番隊への道を歩いている。
前は恋次に引きづられながら通ったこの道を、人一人背負いながら歩くのは面倒だと感じている様子で、ちらりと背中のイヅルを見てはため息をついていた。



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