第一部 [13/32]


四番隊からの帰り道、自身のお腹が空腹を訴えていたかんろは道中昼飯を調達していた。
それを気が済むまで食べたあと、本能からか今度は眠気が来てしまい、そのままどこかの隊舎の屋根の上で眠りについてしまった。



仕事を終えた隊士たちがそれぞれの家や部屋に戻る準備を始める時間ギリギリだが、一角がまだ稽古場で木刀を振り回していることを願いながら、急いで十一番隊隊舎へと向かう。

稽古場に着くと、中から女の人の声が聞こえた。

この隊には副隊長と自分以外に女はいない。
だがかんろはこの声に聞き覚えがあった。
きっとこの声の主は、一角や恋次を飲みに誘いに来たのだろう、と理解すると同時に、稽古場に入るか入らないかかんろは悩んでいた。



声の主、松本乱菊は思ったとおり、一角たちを飲みに誘いに来ていた。
かんろが稽古場に入るかどうか悩むのは、前に一角たちが乱菊と飲みに行った次の日、彼らがひどい二日酔いになっていたのを知っているから。
恋次からは、乱菊さんと飲みに行くなら覚悟を決めて行け、とこっそり言われていた。

あまり話したことはなかったが、彼らからどんな人なのかは聞いていたので、酒を飲むことに慣れていないかんろは出来るだけ飲みに誘われないようにと過ごしてきた。



どうしようか廊下で悩んでいたが、一角と稽古することを諦めて事務作業でもしようと踵を返した。

「かんろ、どこ行くの?」
声をかけたのは弓親で、戸口を開けてかんろを見ていた。
一角に突かれたところは大丈夫だった?、と声をかける弓親に返事をするため振り返ると、その奥からすたすたと乱菊がでてきた。

「あ!あんたがかんろね!」
ようやく会えた、と笑顔を向ける乱菊に、こんにちはー、と言いながら少しずつ後ろへ下がるかんろ。
しかし、乱菊が見逃すはずもなく、あっさりとかんろを自分の腕の中に収めてしまった。


「ちょっとー、なんでこの子あたしを避けるわけー?」
なぜか本人には聞かず、周りの人に問う乱菊。

ぎゅむぎゅむとかんろを抱きしめながら恋次の方を向いて、変なこと吹き込んでないわよね、と言って目を細める。
対して恋次は乱菊から目をそらして一角へと歩み寄っていた。



「まあいいわ。ねえ、あんたも今日の飲みに参加しなさいよ」
『え?あの、自分お酒はちょっと』
「そんなの飲んで慣れるのよー」

後頭部に感じる柔らかさと、回された腕で窒息してしまうのではないかと思いながら、どうにか離してもらおうと奮闘するが、乱菊はかんろを腕に収めたまま一角や恋次を引き連れていつもの居酒屋へと足を進めてしまった。



道中でも乱菊はかんろを離さず、かんろに色々と話しかけていた。
乱菊に適当に返事をしながら、ほかの人たちが乱菊さんから助け出してくれるかも、と視線を送ってみるが、苦笑いや面倒臭そうな顔をされたり、目を逸らされてしまったりで、かんろは助けを求めることも、居酒屋に連れて行かれることも、もうどうにでもなれと諦めた。



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