第一部 [11/32]
弓親に言われて、かんろと四番隊へ向かっていた恋次は、それまで一定に動いていた足を止めて立ち止まるとくるりと後ろを向いた。
『んー?』
道場を出てから先程まで、一角にもうひと勝負お願いしに行こうとしていたかんろ。
はじめこそは力ずくでも戻ろうとしていたが、その身長差のせいか、恋次に死覇装の襟を、猫を捕まえるかのごとく掴まれてしまった。
恋次の腕から逃れようと多少の抵抗をしてみるも無駄のようで、そのままズルズルと引きずられるかの様に四番隊への道を進むこととなった。
振り返った恋次の目には、諦めたのか飽きたのか、引きずられながらぼーっと空に顔を向けているかんろが映っている。
全く気にしていないのか、首から垂れている襟巻きが地面に引きずられて少し汚れていた。
顔は空を見上げたままで、気だるそうな目だけを恋次に向けると、かんろはどうして恋次がこちらを見ているのかわからなくて頭にハテナを浮かべている。
「諦めたんなら自分の足で歩けよ」
高く持ち上げてから、かんろの足をしっかり地面につける。
すとんと立たされたかんろはちぇ、と小さくこぼして、四番隊への道を自分の足で進む。
恋次もその後をゆっくりと歩いた。
「痛みはないのか」
『ぜーんぜん』
両腕を広げながら、綱渡りをするかのようにまっすぐ、ゆっくり、大股で歩くかんろに声をかければ、のんきな答えが返ってきた。
はぁとため息をついて、お前なぁ、と話を続ける。
「女だったんだから少しは体に気を遣えよ。骨が折れたり傷跡が残ったりしたらどうすんだ」
その恋次の言葉を聞いて、くるりと振り返ったかんろに、今度は恋次の方が頭にハテナを浮かべる。
かんろは少し眉間にシワを寄せて恋次を見つめていた。
『女だからーなんて言うのやめてください、勝手に勘違いして、そんなの今更ですよー』
ここまでで大丈夫ですー、と言ってかんろはぴょーんと高く跳ねて近くの塀を超えてしまった。
もうすでに四番隊隊舎についていたようで、恋次は塀の向こうに消えた影にため息をついてから駆け足で綜合救護詰所へと向かった。
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