第一部 [10/32]


「女だったからって今まで通り手加減しねえからな!」
『大丈夫です。じゃないと十一番隊に入隊した意味がありません』
事務作業はまだ少し残っていたが、女かどうか疑っていた一角に対してイラつきが最高潮に達したのか、ぼそりとかんろが上司である一角に対して男らしくない、と言ってしまったがためにいつの間かひと勝負することになった。



いつものように相手の懐に入り込もうとしたかんろは、変化した自分の身体のことを考えていなかった。
瞬間、ゴツンと音がして、思ってもいなかった痛みから、一角とかんろはそれぞれ顎と頭を押さえている。
その阿呆さからか弓親の口からは小さな笑いが出てしまう。



「いってえな!成長したのは図体だけか!!」
怒鳴り散らす一角と、口を僅かに尖らせるかんろ。

さっと間合いを広げて今度こそ、と言いながら死覇装の上着を脱ぐかんろを見ながら、一角はもう一度しっかり木刀を握る。
周りを囲っていた隊士達からおおっ、と歓喜の声が聞こえたが、それは一角と弓親の視線によって沈黙となった。



幾度目かの木刀の交わりを見ならが、楽しそうだと思う弓親。
だが木刀の打ち合う音はそんなに長くは続かなかった。
二人とも何か言い合いながら木刀を振っていたが、突然ドっと鈍い音がしたかと思えば、一角があ、と小さく呟いた。



皆が一角の見ている方を見れば、かんろが胸元を押さえてゲホゲホと苦しそうに咳き込んでいた。
すかさずかんろに駆け寄るのは弓親だった。

「大丈夫かい?」
咳が治まってきたかんろに弓親が問えば、はい、と返事が返ってきた。

その後ろから恋次と一角が顔をのぞかせる。ゆっくりと起き上がるかんろは一角に突かれたであろう胸元をさすっていた。
もう一回、と立ち上がるかんろを止めたのは弓親で、恋次に四番隊に連れて行くように伝えた。



二人が稽古場をあとにしてから弓親は、ゆっくりと歩き出していた一角と向き合う。
「さっきの…手合わせの時に出すような強さじゃないよね、かんろが女で戸惑っちゃった?」
君らしくもない、と弓親は視線を外した。

「そんなんじゃねえよ。言い合ってたら、ついイラついちまっただけだ」
けっ、と持っていた木刀を肩に担ぎながら、弓親の視線にちらりと見返しただけで、一角は近くの縁側に腰掛けていつものようにごろりと寝転んだ。



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