第一部 [15/19]


ノルが警備員の元から倉庫内に行ってから少し経ち、シャルたちも内部に侵入した。薄暗いそこは、倉庫というには少しばかり大きな建物だ。小さな天窓からは月の明りが差し込んでいる。

床にはポツポツと滴ったような血の跡がついていた。それはおそらく、先ほどノルが吸い尽くした警備員の血。今日のお宝は世界に一冊しかない本なんだけど大丈夫かな、とシャルが不安げに頭を掻いた。


ドサリと何かが地面に落ちる音がした。続いてこちらに近づいてくる足音。奥の暗闇からゆっくりと近づいてくる人影は、天窓からの月明かりによって姿が確認できた。

「ノル!それ、お宝の本?」
歩いてきたのはノルだった。血の流れる腕とは反対の手にしっかりと本が握られている。

シャルの問に対して返事はなかった。キラリと光る瞳がこちらを見ているだけ。
「ノル?大丈夫?」
『…あ!うん、大丈夫。これ、お宝であってる?』
シャルが少し大きな声で呼びかけると、ハッとしたようにノルが答えた。
手に持つ本をシャルに渡しながら確認を取れば、ゆっくりとノルの姿が元に戻っていく。

『あっけなかったね』
能力使う意味あったかなと呟くノル。確かにこれではほんとにあっけなさすぎる。こんな警備では念能力者でなくても盗んでしまうだろうに。

シャルがちらりとフェイタンの方を見れば、やはりつまらないという顔をしながら、腕の血が止まらないノルを見ていた。
「大丈夫なの、それ」
『うーん、発動した時に傷とか治ってくれるんだけど…』
いつもと違う自分の体に本人も戸惑っているらしい。どうにかして血を止めようと倉庫内にあった縄で止血しようとしている。



「終わたならささと帰るよ」
「待ってよフェイタン!ほら行くよノル」

腕の怪我に少し疑問の残る二人だったが、お宝を無事に手に入れたし、フェイタンが既に倉庫から出て行ってしまったしで、自分たちも帰路へと向かった。



**********



事はアジトへ帰る途中で起こった。


なんとか倉庫にあった縄で血を止めたノルだったが、突然その腕から血が噴き出した。

『きゃ!』
腕から出た血が形状を変えてノルの喉元に突きつけられた。ナイフのような形になったそれに驚いて後ろへ下がるが、ノルの背中に壁のようなものにぶつかった。振り向けば、いつの間にかパーカーのフードを深く被った高身長の男がいた。

「ノル!」
異変に気づいてシャルが近づこうとすれば、隣にいたフェイタンに止められた。見ればノルの後ろの男は血でできたナイフを持ち、ノルの首にピッタリとつけている。
「誰ね」
シャルを止めた手を下ろしながら男を睨むフェイタンに対して男はクククと喉の奥で笑った。

「いえいえ、名乗る程の者ではありませんよ。私のコレクションがいつの間にかいなくなってまして、探していたんですよ。まさかこんなところにいるとは思いませんでした。この生き物は私の所有していたものなので返していただきますね」

A級首さん

と男が呟いたと思えば、その瞬間に男のナイフとフェイタンの仕込み傘がぶつかっていた。




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