諦めたくない

杏伍に背中を押された僕は、牧志にある不動産屋の前に来た。
ここが2軒目ということもあってか、今度は落ち着いて不動産屋の扉を開けることができた。
この時の僕たちの格好は誰がどう見ても観光客にしか見えないラフな格好で、決してビジネスで来たような感じではなかった。
それでも不動産屋の方は、とても紳士的に僕たちを迎え入れてくれた。

僕はできるだけゆっくりと沖縄へ移住してお店を開きたいこと、そのための予算を不動産屋の方に説明した。
不動産屋の説明によると、移住者が住宅地などで地元の人を対象とした商売することは難しいということと、国際通り近辺で、観光客をメインにした方が良いなどのアドバイスをいただいた。
そして、何か所か空店舗を紹介・説明していただき、翌日、実際にその物件を見せてくれることになった。

あんなに重たかった不動産屋の扉が杏伍のおかげで開けることができ、沖縄移住へ向けての一歩前進もできた。
本当に杏伍のおかげである。
僕は深く感謝した。


その日の夜、ホテルの部屋のベッドで、沖縄に来てから今日までのことを振り返りながら、僕を支援してくれている方たちに報告のメ

ールした。
当時、僕は沖縄移住のホームページを運営していることもあり、沖縄出身の方や在住されている方たちから、何かとアドバイスを受けてい

た。
その中で、後にたいへんお世話になるであろうSさんからメールの返事をいただいた。
「やっぱり二人が力を合わせるとスゴイね。なんでもできちゃうね。それなのにお友達と(店を)できないのは残念だね」
僕はSさんの返事を読んでいるうちに、やっぱりこの沖縄移住は二人のうちどちらかが抜けても成立しないような気がしてきた。
杏伍にやる気がないのは判っているつもりだし、諦めなきゃいけないことも判っている。
たが、このまま簡単に諦めて終わりにしてしまっていいのだろうか……。
僕は今思っている事をこの日のホームページの日記に綴ってみた。

数分後、眠る前の暇つぶしに、たまたま杏伍のホームページを覗いてみた。
すると、僕の日記に対しての返事を書くかのように、この日の杏伍の日記には以下のことか綴られていた。
「今回は沖縄に移住しようとしてる友達のサポートがメイン。なので、日程は彼が決めて、俺はそのリサーチに同行している形。観光もし

たい気持ちも正直あるが、サポートに徹したい……」
やけにサポートという言葉を使ってきやがる。
これが杏伍の返事なのだろう。
もう完全にやらないと決めたんだし、僕も一度はそれで納得したことなのに……。
もう既に判りきったことなのに、それでも僕は、明日、店舗の物件を見たら、もしかしたら杏伍の気も変わるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に抱えて、僕は眠りについた。

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