沖縄移住準備

2005年10月、杏伍は移住準備の手伝いということで一緒に沖縄へ来てくれた。
今回の目的は、借りるお店を探すこと。

沖縄に到着してすぐに、電話帳で不動産屋の住所を調べて、何軒が不動産屋をピックアップした。
それを基に不動産屋を巡り歩くことになった。

ピックアップした不動産屋を何軒が回り、店頭に貼ってある物件を見るのだが、どうしても不動産屋の扉を開けることができなかった。
本当に一人で知らない土地に移り住み、そしてお店を開く……、そう思うと僕は不安でいっぱいになった。
結局、この日は不動産屋の前までは行くものの、家賃が高いとか理由をつけて、扉を開けて中に入ることはできなかった。


沖縄へ来て2日目、今日も不動産屋を巡り歩いた。
やはり昨日同様、中に入る勇気が湧かなかった。

10月の沖縄はまだまだ暑い。
歩き疲れ、額に汗する僕たちは、壺川にある公園で休憩をとることにした。
公園のベンチに座って、僕が休んでいると、杏伍が「もう行かないと時間なくなるよ」と、僕を急かしてきた。
今回の日程は4日しかなく、後3日で借りる店舗を決めなければならない。

僕は実際に沖縄へ来て、怖気ついてしまい、何もできないでいる。
そんな僕とは違い、杏伍は積極的に店舗を探そうとしている。
もしかしたら……。
「もう一度、二人でやらないか?」僕は試しに杏伍へ聞いてみた。
でも杏伍は下を向いたまま返事をしない。
僕は沖縄へ来てから怖気ついてしまって、不動産屋に入る勇気すらないことを正直に杏伍へ打ち明けた。
杏伍は僕の気持ちを理解してくれた上で、「せっかく沖縄まで来たんだから、せめて不動産屋へは行くだけ行こう」と言ってくれた。
「だったらせめて残りの3日間だけでいいから、今から同じスタートラインに立って、沖縄で一緒に頑張ってもらえないか?」と僕は聞いてみた。
杏伍は「わかった、協力するから一緒に頑張ろう」と言ってくれた。


それから数分後、僕たちは安里にある不動産屋の前に立っていた。
僕はドキドキしなから店内に入った。
中に入ると目の前のカウンターに男の人が座っていた。
僕は緊張するとめちゃくちゃ早口になるクセがあるため、できるだけゆっくり分かりやすく、空店舗を探していること、予算などの条件をその男の人に説明した。
そして物件を検索してもらったが、僕が出した条件に合う物件がなかったので、その店を後にすることにした。

話は何も進展していないにも関わらす、僕にとっては、不動産屋に入るという行為、たったこれだけのことがとても大きな出来事だった。
そんな想いからか「今日はもうこれぐらいにしてホテルへ帰ろう」と言ってしまった。
杏伍は「このままの勢いで次もいかななきゃダメだ」と言って僕の背中を押してくれた。

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