裏切り

あの2月の話し合い以降、僕も杏伍もあまり沖縄の話をしなくなった。
なぜだか沖縄の話をしたら全てが崩れて無くなってしまいそうな気がしたからだ。
そんな宙に浮いたままの沖縄移住計画に危機が訪るのもそう遠い話ではなかった。

2005年8月、僕のホームページの掲示板に杏伍から書き込みがあった。
「彼女と結婚し平凡な家庭を作る決意をしました。彼女も沖縄移住は反対しています。だから沖縄移住はできません」

僕は言葉を失った……。
最初は何かの冗談かと思ったし、もしかしたら誰かのイタズラかもしれない。
そう信じて、何度も書き込まれた内容を読み返した。
たが、書き込まれた文章は、僕と杏伍にしか知り得ない事柄も書かれていたことから、杏伍本人による書き込みであることに間違いはなかった。

こんな大切な事を掲示板に書き込みするなんて信じられなかったし、それ以前に、他の誰に裏切られるよりも、一番身近な存在で、まるで兄弟のように今まで一緒に生きて来た杏伍に裏切られたことが……、ただそれだけがショックだった。

この時、僕は不思議と杏伍に連絡しなかった。
いつもの自分だったら、きっと怒り狂いながら、すぐに詰め寄ったであろう。
ところがこの時ばかりは、ショックが大きかったからか自分から連絡する気になれなかった。

その後の僕は、今までの緊張の糸が切れたかのように、まるで死んでいるかのように、生気を無くしてしまったかのように、ただ苦しいだけの毎日を過ごした。
あんなに頑張ってお金を貯めたのに……。
こんなはずじゃなかったのに……。
簡単に言葉で言い表せられない、いろんな思いが交差して止まなかった。


あれから数日が経った。
時間が経ったからか、少しだけ冷静さを取り戻した頃、僕は自分のことよりも杏伍のことが心配になってきていた。
今、杏伍はどう思って毎日を過ごしているのだろうか?
確かに今は結婚して幸せな家庭を築くという目標を持ったのだからそれでいいかもしれない。
だが、その後はどうなるのだろうか?
10年、20年経った頃、杏伍は親友を裏切ったことを思い出すに違いない。
その時、罪悪感に襲われたりしないだろうか?
もしそうなったとしたら、その罪の意識を死ねまで抱えて残りの人生を歩いていかなければならない。
そんなのあまりに辛すぎるし悲しいすぎる。
そんな思いはさせたくない。
僕は杏伍を許すと同時に、単独で沖縄へ移住してお店を開く決意をした。


僕は、勇気を出して、杏伍へ連絡を取った。
そして僕は、杏伍を許すこと、沖縄へは一人で移住する決意をしたこと、但し、許す条件として、沖縄移住準備の手伝いとして、10月に沖縄へ同行して欲しいと伝えた。
杏伍は、ひどく申し訳なさそうな態度で、僕の出した条件を了承してくれた。

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