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02

 太刀川と迅が個人戦をしているのを、夜はモニター越しに見ていた。迅を相手にしている時の太刀川は至極楽しそうだ。迅とて同じだろう。二人はライバル、といった感じだろうか。そんな言葉では片付けられない何かがあるように、夜には思えた。

 夜は迅に勝てる気は全くしない。本当に、ゼロだ。迅には未来視のサイドエフェクトがある。それを抜きにしても、迅は格上の存在だと、思っている。
 迅には旧ボーダー時代からお世話になっているので偶に夜も手合わせをお願いしているのだが、勝てる光景が思い浮かばないのだ。だが向上心もあって。太刀川に対しての感情同様、いつか迅にも一泡吹かせてやりたい気持ちがある。
 その為なら何回負けたって続ける事が大事だと、夜は思っている。

「しっかし凄いよなあ」

 飲み物を口に運んだ後、夜は唸った。目で追いきれない。それだけ目まぐるしく戦況が変わっていく。迅と太刀川はほぼ互角。少し太刀川の方が優位だ。迅の方が少しだけ、負け越している。

 以前迅に、太刀川相手だとどうしてそんなに苦戦するのか聞いた事がある。そうしたら、手数が多すぎると言っていた。
 未来はいくつも見えるらしい。という事は、どの未来が現実になるのか分からないレベルで太刀川の攻撃パターンが多いという事だ。それはいくらサイドエフェクトがあってもどうしようもならない。
 という事は、夜は考える。自分は攻撃パターンが単調という事だろうか。これはやはり、迅とも個人戦をすべきだな、などと思いながらまた一口飲み物を飲んだ。
 得るべきものは、沢山ある。

「お疲れ様です、二人とも」

 暫くして二人がブースから出てきた。夜は前もって用意していた二人分の缶コーヒーを投げるように手渡す。見物料金のようなものだ。ハイレベルな戦いは見ているだけで勉強になる。生かせるかどうかは、分からないのだけれど。
 それでも夜もメインは弧月使いだ。戦い方にバリエーションを持たせたい。

「おっと、投げ方雑じゃない?」
「迅さんなら取れますよね」

 断定だ。夜の行動だって、迅には見えている事で。太刀川に至っては何にも気にせず貰ったばかりのそれを開けて飲んでいる。慣れているのだ。迅だって実はそんなに文句をつける気もなくて、有難う、とコーヒーを受け取った。

 今日の戦績、結果だけ言えば、太刀川の勝ち越し。これで二人は何戦何勝になったのだろう。夜は数えていた訳ではないから分からないし、当人たちだってきっと把握していない。大体こんな感じ、程度だろう。今の所太刀川が優位なのは変わらなそうだ。

「迅さん今度また私とも個人戦して下さいよ」
「夜ちゃんの頼みなら断れないな」

 三人で立ち話をする。迅はよっぽどの事がない限り夜の頼みを断らない。それは今の夜を形成している要素を知っているからだ。出来るだけ、力になりたいと思っている。
 実は見えている未来があって、それは夜にとってとても良い事なのだけれど、迅はそれを秘密にしている。実現するかも分からないし、必要以上に突っ込む事もないだろうと思っているからだ。出来れば実現して欲しいし、どうにかしたいという気持ちもないと言えば嘘になるが、ここ自然に任せようというのが迅が出した答えだった。
 未来はなるようになるのだ。

「じゃあ俺ともやろうぜ今から」
「今日は閲覧気分なので、他の人として下さい」

 意地悪でもなんでもなく、それは夜の本心だ。第三者として外から見ると、実際に対峙するのとでは違う見方が出来る。もっと色んな隊員の戦い方を見たかった。攻撃手だけではない。射手、銃手、狙撃手。色んなポジションの相手と戦う上で、どう立ち回ったら良いか。
 場面ごとに戦い方は変わって、フリー隊員の夜としては様々な場面で違う隊員と協力して任務にあたらなければいけないので、ランク戦や個人戦を見る、というのもボーダー隊員として必要なものだった。

「じゃあ迅もう一戦やるか」
「ごめん、おれこの後用事あるんだ」

 残念、と口にしたのは夜だ。もっと二人の戦いを見たかった。しかし用事があるというなら仕方ない。迅は忙しい。一戦見れただけでもよしとしようと気持ちを切り替える。
 ならば何を見ようかと、夜はぐるっと辺りを見回す。太刀川は太刀川で、誰か居ないか探しているようだ。残念ながら、迅程太刀川と真っ向勝負出来る人材は中々居ない。それでも太刀川は適当な人間を見つけて誘うのだろう。
 生贄になってくれて有難う、と夜としては心の中で手を合わせるのみだ。

 さて太刀川は放っておいて、モニターに目を向ける。まだボーダーに入って間もない隊員だろうか。偶にぎこちなさが出る。けれどこういった一戦も勉強になる。相手の隙を見つけてどう傷を与えるか。自分ならここはこうする、ここは。そういった風にモニターを見ながら夜は考える。

 体を動かさないわりに、今日は充実した日になりそうだ。太刀川を尻目に、夜は最後の一口を喉に流し込んだ。


十年後の私へ
 迅さんも太刀川さんも、お互い戦っている時はとっても楽しそう。近界民が襲ってきた時戦力になるようにの訓練だけど、それでも楽しめるのは羨ましいな。私はまだ少し、思い出してしまうから。ねえ貴女は今、二人の隣に立っている? 実力不足で死んじゃってたりして。何が起こるか分からない人生だから、そうなっても不思議じゃない。なんてね。
 大丈夫だよね、貴女だって強い。だから生き残ったんでしょう。生き残ったからには、世界に恩返ししないとだよね。私は私なりに、強くなればいいんだもの。



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