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14

 今日は学校だ。夜はクラスの自分の席に座っていた。なんだか怠い気がする。任務には問題なく出ているし、心配する程の事でもないのだろうが具合が悪いと気分も下がる。それと連動するように具合ももっと悪くなるから堂々巡りだ。

「夜ちゃん大丈夫?」

 柚宇が心配そうに話しかけてきた。元々親しくはあったがここ最近より一層距離が近くなった気がする。その原因が夜にあるのか、柚宇にあるのかは分からない。けれど夜にしてみれば、こうして話しかけてくれる人物は有り難かった。結花もそうだ。何気ない会話に、確かに夜は助けられている。
 今日も今日とて柚宇は柚宇で、夜は夜だ。同じボーダーの中、隊や役職は違えど、共感するものもあった。高校では高校生らしく、とは中々いかないもので、でも夜は今の状況を楽しんでいる。きっと成長しているのだ、気づかない所で。

「うーん、頭が重い」
「無理しちゃ駄目だよ」

 柚宇の言葉に夜は頷いた。具合が悪いままではそのうち任務に支障が出る可能性も出てくる。幸い今日は任務の予定はないが、それにしたっていつ緊急招集をかけられるか分からない。夜はそういう立ち位置に居るのだ。
 これ以上悪くなる前に保健室にでも行こうか。そう思い至って柚宇に伝えた。付き添おうかと言われたが断る事にする。それよりも次の授業の教師に保健室に行く旨を伝えて欲しいとお願いをし、夜は一人教室を出る。
 最初は屋上でも行こうかと思ったのだが、具合が悪いのは本当だし素直に保健室に行く事にした。とぼとぼ歩いているうちに目的地について、ガラガラと引き戸に手をかける。中では保険医がデスクに座っていた。

「あら、どうかした?」
「ちょっと頭が痛くて。ベッド借りられますか?」

 珍しいわね、なんて言いつつもベッドの方に促す保険医に軽く一礼をし、夜はベッドに横になった。カーテンで区切れば、簡易的な個室の完成だ。何だか寒気もするような気がして、布団の中に潜り込む。そのタイミングで体温を測るよう言われ、頭を出して受け取った体温計を脇に挟んだ。
 ピピピ、と電子音が測定が完了した事を告げる。微熱だった。このまま保健室に居ても何も変わらないし、帰ってしまおうかとも考えたのだが帰った所で一人なのは変わりない。ただ保健室に居たとしても状態が良くなる事もないだろうし、大事なベッドを占領するのも良くない。いつ夜より具合の悪い生徒がやってくるかも分からないのだ。

 回らない頭で一通り考えた末、夜は帰る事を選択した。一時間だけ保健室にお世話になり、授業が終わった所でカバンを取りに教室へ向かった。騒々しい周囲に軽い眩暈を覚え、本格的に休まねばと思った所で夜の姿に気づいた柚宇が話しかけてきた。

「帰るの?」
「わしはもう駄目じゃ……」

 お道化てみたが本心だ。多少大袈裟ではあるが。結花もやってきて一緒に夜の心配をしてくれている。いい仲間だなんて浸りながら教室を出た。後で授業の内容を写させてもらう約束もしたし、思い残す事はない。帰って寝る、それが今の夜の任務だ。

 本部内、自室にて。着替えるのも面倒で制服のままベッドにダイブする。大の字になって天井を見上げたら、気持ちがほぐれて行くのを感じた。頭がくらくらする。熱が上がったのだろうか。測る気力も起きなかった。今は、こうして何もせずだらけて居たい。

 遊真たちの入隊から数日。迅には何か含みを感じる。それが何か分からなくて、夜はずっともやもやしていた。肝心な所は話して貰えない。迅にとって夜に話す事柄に分類されていいないのかもしれない。聞けば話してくれるかもしれないが、何だかそれも憚られた。無理を言って聞く程ではない、でも気にはなる。結果、一人でぐるぐる考えても何も解決しなくて今に至っている。
 もしかしたらこの熱だって知恵熱かもしれない。本来の夜はどちらかというと頭を使うのは苦手なタイプなのだ。周囲は単独で渡り歩く夜を賢いと評価しているが、自分ではそんな事を思った事はない。なるだけ考えず、シンプルに生きていたいと思っている。その為に、色々な人を利用しているのだ。迅も例外ではない。太刀川も。

「そうだ、太刀川さんに相談……」

 口に出してはみたが意味がないだろうと思い留まる。何だかんだ太刀川を頼りにしている自分に嫌気が差す。一番最初に頭に浮かぶのが太刀川の顔なんて、どうかしている。絶対望んだ答えなんてくれないのだ。
 しかしそれが良いのかもしれない。想定出来る回答なら、相談する意味も半減してしまう。思いもよらない答えこそ、正解なのかもしれない。思考の外を見るのは、必要な事だ。
 やはり太刀川にここ最近夜が抱える靄について相談してみようかと考え至る。何をどう言ったらいいのかまだ纏まっていない。夜は思考を巡らせた。少しだけ、視界がクリアになった気がした。


十年後の私へ
 平凡な私だから、非凡に憧れる。非凡とは何かって聞かれたら、答えられないのだけれど。太刀川さんの言葉は、偶に刺さる事があるから。偶に、ね。今の私が想像出来ない思考を、明日の私は持っているかもしれない。悔しいけれど、それが事実なんだ。
 貴女はきっとそうして経験を積み重ねて、歳を取ってきたんだろうね。これからも。今の私には想像出来ない貴女になっている事を、心の底から願うよ。

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