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15

“門発生、門発生。大規模な門の発生が確認されました。警戒区域付近の皆様は直ちに避難して下さい”

 空が真っ暗に染まる頃、夜は本部を飛び出していた。迅に対して感じていたモヤモヤは今回の事に関するものなのかもしれない、等と考えながら。すっきりはしない、でも感情を優先させるのは、この場に於いては正しいとは言えない。
 既にあちらこちらでボーダー隊員と近界民との戦いは始まっている。今は集中しなければと、夜も構える。

“夜。フリーで動いて出来るだけトリオン兵の数を減らせ”

 忍田から通信が入る。了解、と短く返事をした。当然だが夜は一人だ。上手く立ち回らなければならない。西と北西が放置で良い事は聞いた。ならば夜が足を運ぶのは、東、南、南西。夜はひとまず南に進路をとった。流れてくるトリオン兵を倒しながら向かっていくと、少し離れた所に東隊の姿を視認する。東が居るなら大丈夫だろうとその場を去ろうとしたが、どうにも様子が可笑しかった。奥寺が蹴散らされ、東のアイビスが弾かれる。捕まっていた小荒井は東の機転により緊急脱出したようだが、どうも相手のトリオン兵の動きは奇妙に見えた。
 夜は迷わず東に声をかける。東も、警戒しつつも夜にちらりと視線を向けた。

「変なの居ますね」
「新型だろう。小荒井が捕らえられそうになった」

 やがて本部との通信で、新型がトリガー使いを捕獲する為のトリオン兵である事が分かった。狙いは夜に向けられる可能性もあるという事だ。一部の隊員には荷が重いだろう。トリオン兵の目標がこちらから逸れる前に、夜は向かって行った。そのタイミングで柿崎隊も合流する。

「ナイスタイミング!」

 夜は声を張り上げた。まだ敵の全貌が見えていない以上、増援は有り難い。

「援護お願いしていいですか。ある程度削れた所でトドメ刺しますんで」
「了解!」

 新型の意識が自分に向いているのをいい事に、夜は弧月を振りかざす。手数で勝負、太刀川や迅に相手をしてもらう事で自然と身に着いた戦闘スタイルだ。援護は優秀、初見の敵に対してで言えば比較的容易に倒す事が出来た。太刀川ならもっと簡単にやってのけるだろうと思ったが、この思考は今は必要ないものだ。夜はトリオン兵の残骸を見ながら弧月を握り直す。

「私はひとまず北上します。流れてきたトリオン兵は任せますね」

 この人員なら大丈夫だろうと思っての判断だ。他の隊員も合流するはず。夜はあくまでフリーで動く。東の応答を確認してから、夜は走りだした。向かってくるトリオン兵を次々となぎ倒して行く。なるべく他の隊員の負担を減らしたい。出来る事をするのだ。それが最善だと、夜は分かっている。

“新型見つけたらやっちゃっていいですか”

 走りながら本部に通信を求める。返ってきた忍田の言葉は是だった。大丈夫、一人でも出来る。手応えは最初の一体でしっかり感じていた。

“慶に新型の討伐をするよう伝えた。場合によっては共闘してくれ”
“了解”

 応じはしたものの、太刀川との共闘はないだろう。太刀川の手にかかれば新型如き造作もない。太刀川慶とはそういうレベルの男だ。夜だって能力はある。夜の基準は自分、つまり自分でも新型を倒せると思ったのだから、当然彼も、という思考回路だ。実際その通りで。夜は早速目の前に現れた新型を一刀両断した。

「そう易々と捕まりゃしないのよ。悪いけどさ」

 戦いとは数を熟すごとに学ぶもの。どこにどう刃を入れればいいのかはもう学習済みだ。分かっているなら、何も難しい事はない。
 計画もなしに進んでは斬ってを繰り返した。と言っても、大体の位置は分かっている心算である。そんな夜に、再び忍田から通信が入った。

“南部戻れるか。人型近界民だ”

 まずい、夜は思う。現在地が悪い。大分離れてしまっている。早く向かわなければ、と方向転換をした。幸いトリオン兵の数はそんなに居ない。それだけ夜が倒しているのだ。グラスホッパーを使う手もあったが、夜はそうしなかった。忍田が夜に声をかけたのは万が一の為。役目はあくまでも雑魚狩りだし、人型と戦っている皆の為にも、少しでも介入するトリオン兵を減らしておきたい。
 迅速に、トリオン兵は倒しつつ。そうやって夜は南部へ向かった。

 そして現着した夜が目にしたのは、丁度米屋が人型を倒す光景だった。倒された人型は、別の近界民の手によって逃げていく。

「おっと遅かった。皆流石」

 隊員たちが集まっている所に声をかける。緑川が「夜ちゃん遅い!」と茶化すように言うのを、ごめんごめんとはぐらかす。夜が最初南部地区を訪れた時より大分ボーダー隊員が増えていた。作戦によるものだ。
 B級合同部隊は南部地区の防衛。出水、米屋、緑川はC級のサポートに行くようだった。

「夜はどうする?」
「役立たずかましちゃったんで、変わらず走り回って本来の役割全うしますかね」
「そうか分かった。それと、役立たずではなかったと思うぞ」

 東のその言葉に、夜は頭を下げた。自分の事を役立たずと言ったのは、半分は冗談、半分は本音だ。東はそれを見抜いている。天才的なフォローだなというのが夜の率直な感想だ。兎も角、夜は再び皆に別れを告げた。東の気づかいに応えなければならない。


十年後の私へ
 私はまだまだ子供で、未熟で。出来ない事も沢山あって。でも周りに恵まれているから、何とか生きている事が出来る。貴女の周りにも、きっと助けてくれる人は沢山居るでしょう。それを人望だと勘違いしてはいけないよ。周りに出来た人が沢山居るだけ。貴女を否定するわけじゃない。貴女の周囲に居る人を、いつまでも大切にしてねっていう話。

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