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13

 ボーダー隊員正式入隊日がやってきた。遊真と千佳の入隊式だ。今日より二人は、正式なボーダー隊員となる。
 特に任務も入らなかった夜は、少し離れた所から様子を眺めていた。骨のあるやつは居るだろうか、ぐるっと辺りを見回す。特徴的な白い頭を見つけたが、声をかける事はしなかった。後で話す機会はいくらでもあるだろう。
 壇上に忍田が上がる。夜はそれを見ていた。

「君たちの入隊を歓迎する」

 忍田の言葉の後、嵐山隊の面々が説明の為前に出る。流石、慣れたものだ。嵐山隊が全員揃った所を見るのはあの日以来である。それこそ声をかけたくなったが、今の嵐山達にそんな暇はない。
 入隊指導の下各々のポジションに別れた隊員たち。夜は嵐山の方について行く。説明の後、早速対近界民戦闘訓練が始まった。あっという間に訓練用近界民を倒してしまう遊真。これには夜も驚いた。二回連続一秒切り。簡単に出来る事ではない。なるほど迅が肩入れするはずだと夜は納得する。何かしら、遊真に期待している事があるのだろう。
 迅は夜には本心を言わない。だから夜は自分で推測するしかない。遊真だけではない、千佳にも、修にも、迅は何かを見ているのだろう。夜がそれに関わる事があるにしてもないにしても、ボーダーにとってきっと心強い存在になるのだろうとは、夜にも推察出来た。

「三雲くん。空閑くん」
「茅野さん」

 戦闘訓練が終わり、部屋から出てきた遊真と、外で烏丸と話していた修に同時に話しかける。木虎が少し曇った顔をしたのは気のせいではないだろう。彼女は烏丸の事を尊敬しているから、話途中で夜が入って行った事に少々落胆したのかもしれない。
 だが夜が話したいのは烏丸ではない、今は遊真だ。

「見てたよ空閑くん。戦闘センス抜群」
「どうもどうも」

 夜は小さく手を叩く。遊真は照れた様子もなく、かといって自慢気な素振りも見せず頷く。素直な子なのだろう、とても好感が持てた。以前会った時は挨拶早々に迅との話に移ってしまったから、こうして話すのは初めてに等しい。だからといって今はそんなに時間もないので、もう少し話したら移動しようか、そう思っていた時だった。

「……なるほどな」

 上の方から風間が降りてくる。なるほど、と口にしている割には何にも納得していない様子で。
風間も任務がなかったのだろうか。入隊式を見にくる程の余裕があったのだろうか。後ろの方には風間隊の隊員二人も見えた。一体どうしたというのか。夜は首を傾げたが、何となくこのまま居たら面白い事が起きる気がして、そのまま居座る事に決めた。

「風間さん」
「おー風間さん。お疲れ様です」

 嵐山と夜が言葉で風間に反応する。修と遊真は誰なのか疑問に思っているようだった。それはそうだろう。二人とも風間とは初対面である。
 風間は挨拶もそこそこに修に話しかける。模擬戦をするというのだ。ただ実力を試したいだけではないのだろうと夜は考える。風間は短絡的思考で動く人間ではない。修は周りから止められたようだったが、最終的には自ら決断して訓練室に入って行った。

「何考えてるんだか……」

 それは風間にも、修にも向けられた言葉。短絡的ではないかもしれないが、愚直だなと思う。夜とて他人の事は言えないのだが。今の修には十中八九風間に勝てる要素はない。それは修にかけた烏丸の言葉で分かった。烏丸の言葉がなくても、風間がB級隊員に負ける事はないだろうと思っている。烏丸は強い、夜とてよく分かっている事だ。A級三位の隊の隊長である事が、実力を物語っている。
 それは置いてもやはり面白い展開になった。夜はモニターを見つめた。先ほどからずっと風間にやられっぱなしの修が映し出されている。これは一本も取れないかもしれないな、そう思いながら見る事十九回。風間が何か修に話しかけた後の事だ。修の顔つきが変わった気がした。
 そして二十戦目。ついぞ修は相打ちに持って行ったのだ。これには夜も驚く。十九回、修は圧倒的に実力が足りなかった。それでも回を重ねる毎に考えて、最後は相打ち。短期間でしっかり成長している。

「大変だ、君たちのチームメイトが……!」

 褒めてやろうと修に近付けば、嵐山が先に修たちに話しかけた。千佳の事だろう。ついて行こうかとも思ったが夜にはそれより風間に聞きたい事があった。

「ブラックトリガーの件、言いましたね」
「ああ」

 あの日、太刀川たちが空閑を狙った日。皆が迅の策にまんまと嵌まって、結果的に迅は自分のブラックトリガー、師匠の形見を手放す事になった。夜も後から知った事だ。何故、とは思ったが迅が考えた結果だ。夜が口出しする事ではない。

「策士ですねえ」
「何の事だ」

 そう言った風間は隊員二人と去って行った。風間は分かっていて惚けたのだろう。それが感じ取られたから、夜もそれ以上言葉を重ねなかった。ただ、三人の背中を見送る。
 菊地原なんかは不貞腐れているような様子で、まあそれはいつもの事かと苦笑した。

「何の事だ、ね……さあ、これから大変だぞ、新人くん達」

 夜の小さな呟きは、誰に聞こえる事もなく消えて行った。


十年後の私へ
 どんどん後輩が出来てきました。そんなに長く生きてはいないけど、新しい風は嬉しいだけじゃなくて、何だか少し寂しい。貴女はどう思ってるかな。きっと沢山後輩が出来てるよね。何度も何度も経験して、もう飽き飽きしていたら面白いな。
 それくらい目まぐるしく世界が変わるなら、人生はきっと面白い。


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