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11

「太刀川さん久しぶり。みんなお揃いでどちらまで?」

 月明りの下、そう言って太刀川達と対立する迅を、夜は少し離れた建物の上から眺めていた。真向勝負、だろうか。いや、何処かに狙撃手も居るのだろう。迅一人に対して、人数が多い。何が何でもブラックトリガーが欲しいという事か。

「遠征部隊プラス三輪隊か……随分豪華だこと」

 ぽつりと呟く。夜の存在は気付かれていないようだ。このまま事が進めば良いのだけれど、と考えるも、太刀川たちが気づかない訳ないかと切り替える。ならば気づかれる前にどう動くか、重要なのはそこだろう。
 そうしていたら、嵐山隊も合流した。夜は隠れたままだ。

「嵐山たちがいればはっきり言ってこっちが勝つよ」

 迅がそう言うのを遠くから聞いていた。幾ばくかの会話の後、戦闘が始まる。迅と嵐山隊の面々は一旦後退。作戦を立てる為だ。この場面に於いてイレギュラー因子である夜は、バッグワームをつけたまま陰の方でそれを聞いていた。

「夜は狙撃手組を足止めして欲しい」
「了解」

 一通り話し終え、散会した所で残っていた夜に迅が話しかける。その頃には大体の相手方狙撃手の位置はとれていた。勘である。夜の長い実績に於ける勘は、時に機械の結果をも上回る。夜は自分の勘を信じていた。仲間の犠牲の上に成り立っているものだ。信じないという選択肢はない。実際当たっているのだから、苦情を言う者も居ない。ただ新しく仲間になった人間からは、物珍しい目で見られる事もあるけれど。

「牽制、牽制ね……」

 バッグワームはそのままに、夜は走り出す。なるべく見つからない位置を選んでいる心算だ。太刀川たちは迅に気を取られている。嵐山隊が加わる事により戦力も分散されていていい感じだ。
 足止め、と迅は言った。緊急脱出させる必要はないと、夜は解釈する。落とす事も出来ると思うが、そうすると迅の描いている未来から外れる可能性もあるかもしれない。素直に従うのが一番いいだろう。
 迅に向けられる射線と勘から察した所、一人の影を確認して「見つけた」と夜は無意識にニヤリと笑った。グラスホッパーも使用し上手く背後に回る。

「こーでーらー君」
「夜さん!」
「ちょっとお話しようか」

 見つけたのは古寺だった。狙撃手は複数居る筈だ。少なくとも奈良坂はそんなに遠くには居ないだろう。だが夜の体は一つ。同じ場所に居ない二人の狙撃手と同時に顔を合せる事は出来ない。とすれば、夜の役目は。
 夜は危害を加えないのを示すように両手を上げ、古寺に近付いた。古寺は意味がわからないと言いたそうに夜を見ている。

「夜さんも居たんですね」
「薄々感づいてたでしょうよ」

 緊張した面持ちの古寺とへらへら笑う夜。その様は正反対だ。古寺が気づいていたかそうでないかは今この場では問題にならない。夜が古寺の裏を取った、それが現実だ。
 だが夜は攻撃する素振りを見せない。不気味だ、と古寺は思った。最初だって、話しかける前に攻撃してしまえば落ちていた。しかし夜はそうしなかった。古寺にしてみれば意図が全く読めない。能力で言えば、夜は完全に古寺より上なのである。それが理解できているから余計不気味だ。

「討たないんですか」
「私の役目はあくまで牽制だからね。狙撃手一人足止め位で丁度いいのさ」

 なるほど、と納得するには判断材料が足りない。けれどこれ以上材料を貰えそうな気配もない。
 古寺は持っていた銃を下ろした。いい心がけだと夜は言う。古寺が感じる得体のしれない不安はきっと間違いではない。夜の後ろに、深い深い闇がある。特別夜と仲も良くはないし、何を知っていると問われれば何も知らない。それでも普段の夜にこんな感情を持った事はなかった。きっと対峙したからこそ分かったのだ。戦場での夜は、危険だと。
 夜は古寺の様子を確認して手を下げる。初手上々、いらぬ恐怖を与えてしまった事を申し訳なく思わなくもないが、そう仕向けたのも作戦のうちだ。無駄に争わなくていいのなら、その状況下に持っていく手段は何でも良い。
 兎に角、一人は確実に戦意喪失、狙撃手の射撃を避けるのは分かっていても面倒だから、これだけでも迅の力になれただろう。夜的には任務達成、だ。このまま古寺を連れて奈良坂の所に行ってもいいのだが、まあいいかと行動に移す事はなかった。既に自分で言っている。一人足止め位で丁度良いのだ。余計な労働はしないのが夜のスタイルである。

「嵐山隊の他にも居るな?……夜か」

 その頃、迅側。早くも夜の存在を察した太刀川に迅は「さあ、どうだろうね」ととぼける。ほぼほぼ当たりだと言っているようなものだ。太刀川にはこの位の回答で良い。

「あいつも忍田さんの傘下だからな。お前とも仲が良い。居ても不思議じゃない」

 その通りだが、迅が言葉を返す事はなかった。相変わらず手数が多い。風間も居る。どうやら夜が狙い通り古寺を止めてくれたようで動きやすくはなったが、まだ決着はついていない。
 太刀川とて返答を求める気はなかった。ただの与太話、そんな括りだ。
 夜が更けて行く。戦いの終結まで、あと少し。


十年後の私へ
 私は自分が嫌いなんだろうと偶に思うよ。でも活用できる因子があるなら何だって使う。それが人の為になるなら。人の力になれるなら。自分の居場所が、ここにあると思いたい。貴女は今どこに立っているの? 時々分からなくなるの。
 貴女の居場所が屍の山の上でない事を、私は祈るよ。

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