×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

09

 時は流れ、夜は十八歳になった。太刀川が作った隊はあっという間にランキングを上げていって今はA級一位だ。若干の隊員の入れ替えはあったものの、太刀川隊は安定している。今も近界に遠征に行っている最中で、夜はここ数日太刀川を見かけていない。
 高校では太刀川隊オペレーターの国近柚宇と同じクラスになって、同じくオペレーターである今結花も交えて休憩時間なんかによく話したりもしていた。

 昼休休憩、一緒に昼食を食べながら結花と話す。柚宇は太刀川隊と一緒に遠征に行っている最中で今は居ない。窓から見える空は快晴だ。あの空の向こう側に何があるのか、夜には古い記憶しかない。
 あの頃のまま、変わらないのだろうか。否、形は変わるもの。きっと自分が知っている近界とはまた違っているのだろうと、夜は思う。見てみたいとは思わない。どうしても、思い出してしまうから。逆に見てしまえば、踏ん切りがつくのだろうか。夜の思考回路はまだそこまで至らない。

「今ちゃんの所の隊はどんな感じ?」

 結花は鈴鳴支部の隊のオペレーターだ。支部という所に、夜は勝手に親近感を覚えている。昔も今もずっと、夜は桜坂支部の隊員、茅野夜として生きている。本部に住んで、忍田本部長の傘下に入ってもそれは変わらない。
 かつての仲間たちは、夜の中に色濃く残って消える事はない。消える事を、夜は許さない。

「相変わらずの太一だよ」
「楽しそうで何より」

 別役太一。鈴鳴第一の狙撃だ。愛されキャラだなあというのが勝手な印象だ。鈴鳴第一もまとまりのある隊だ。もっと上に行ってもいい隊だと思う。
 隊が出来て幾ばくも無い頃、一緒の任務に入って誤射された事を思い出す。夜にとっては笑い話だが、太一にとっては一大事だったのだろう。任務終了後、土下座して謝られたのを今でも覚えている。その慌てぶりが可笑しくて吹き出してしまった夜に、太一は一層頭を下げたのだった。
 結花も覚えているようで、偶に笑い話として話したりする。やめて下さいと未だ焦る太一は可愛い。いつもふらっと現れる夜を歓迎してくれる来馬には感謝の一言だ。この隊長にしてこの隊ありだと、夜は思っている。

「夜ちゃんの方はどうなの」
「この間迅さんにセクハラされた」
「普段通りなわけね」

 まさしく、その通りである。玉狛にも時たま訪れている。小南や、偶にノーマルトリガーの迅と一戦する事もあった。一時期迅は何となく話しかけづらい存在になっていたから、ここまで関係が修復出来て良かったと夜は思う。S級になったとしても、迅は大切な仲間だ。昔からの仲間が多い玉狛は、夜にとって第二の我が家に等しい。お互いやる事は沢山あるし入り浸る事は出来ないけれど、夜は玉狛支部が好きだった。

 結花とそんな話をした日の学校終わり。夜は本部の通路を歩いていた。たまに隊員に声をかけられては、挨拶を交わす。そんな中、よく見知った人物の後ろ姿を見つけて夜は声を上げた。

「迅さん!」
「やあ、夜ちゃん」

 振り返った迅は夜に向かって手を上げる。夜は迅の元へ駆け寄った。本部で会うのは久しぶりかもしれない。迅は忙しい身の上だ。他人から見れば夜も充分忙しいのだが、本人にその自覚はない。

「今日は駿くん纏わりついてないんですね」

 そう言えば迅は「もうすぐ来るよ」と笑った。サイドエフェクトで見えたのだろう。
 緑川駿。草壁隊に所属する攻撃手。ボーダーに入隊するきっかけを作ったのは迅らしく、豪く迅を尊敬している。夜ともそこそこ仲が良い。

「迅さん! 夜ちゃん!」
「なんだろう、差を感じる」

 程なくして迅が言った通り、駿が現れた。駿の口からはきっちり二人分の名前が発せられたが、その中の温度差に夜は目敏く気づく。結果、一歩引いて駿の行動を邪魔しないようにした。

「迅さんランク戦しよう!」
「また今度な」

 駿はいつものように迅にランク戦を迫るが、迅は曖昧に躱す。まだ本部に来た目的を果たせていないのだろう。それとも、用は終わって次に向かっている最中だろうか。本当に、忙しい男なのだ。
 太刀川よりも迅の方がずっと忙しそう。ただ、太刀川よりも迅の方が身近に感じられた。付き合いの長さだろうか、それとも迅の人となりか。両方かと夜は結論付ける。兄妹のような、そんな感じだ。

「ちぇっ。じゃあ夜ちゃん!」
「じゃあって何さ」

 諦めた駿の次の一言に突っ込む。次点にされるのは気分のいいものではないだろう。しかし夜には取り留めて用事もない。付き合ってやるかと頷いた。

「負けないからね!」
「よーし分かったフルボッコだ」

 まだまだ駿に負けるわけにはいかない。その成長は目覚ましいが、夜の目標は言葉が悪くなるが太刀川をボコボコにする事だ。実力だってそこそこあると自負している。
 夜は大きく伸びをして、ブースに向かって歩き出した。その背中を、迅がそっと見つめていた。


十年後の私へ
 変わらない仲間の大切さを感じる事が多くなりました。貴女の周りにもきっと沢山の仲間が居るんだろうね。その一人一人を、大切にしなくちゃ駄目だよ。人の縁は不安定で、いつどうなるか分からない。けれど、いつどうなっても後悔しないように……いや、後悔はするんだろうな。それでも、出来る精一杯で生きていく事を、私は忘れない。貴女も、そうでしょう?


[ 9/30 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]