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08

「ようちびっこ」
「もうちびっこでもないんですよ」

 太刀川とのこんなやり取りも久しぶりだな、と夜は思った。一時期見かけなくなった太刀川だったが、今はまた精力的に活動をしているようだった。太刀川の中でどんな心境の変化があったのか、夜には分からない。本人しか分からない事だ。掘り下げて聞く事でもないだろうと思う。それでも今の状態は決して悪くはないと思うし、それならそれでいい。見て取れる雰囲気は上々だ。

 売り言葉に買い言葉。夜の口からは反射的に合いの手が発せられる。ちびっこではない、と否定はしたが太刀川にとっての夜はいつになってもちびっこのままなのだろう。それが少しだけ悔しい。夜はいつでも、太刀川と同じ土俵に立ちたいと思っている。

「最近どうですか」
「やっと隊が形になりそうだわ」
「そら良かった」

 隊員はずっと探していたらしい。隊を作ると宣言したものの中々実現するに至っていなかったようだったから、太刀川にとってはやっと、といった所だろう。話しかけてきた時から話したくて仕方なそうだったから何となく予想はしていたが、改めて本人の口から聞いて本心から良かったと思った。だからそのまま口にする。言ってしまってから皮肉っぽくなってしまっただろうかと些か不安になったが、そんなものは不要なようで。

 太刀川は夜の扱い方をよく心得ている。伊達に長い付き合いではないのだ。しかし夜は気軽に話しつつもどう対応していいのか分からない時があって、それも少し悔しかった。偶に手の上で転がされているような、そんな感覚に襲われる事がある。だが気分の悪くなるものではない。そう思った時はこちらも負けじとやり返せばいいのだ。分からなくなっても、言い返す事は出来る。戦闘で勝てなくても、歳で勝てなくても、太刀川にやり返す方法は他にもある。夜に出来る事は沢山あるのだ。
 悔しいと思うなら、それを跳ねのける事の出来る思考回路を。夜も成長している。

「お前はどうなのよ」
「ぼちぼちですかね」

 流すように返答する。実際特に変わった事はない。最近の夜はフリーである事に誇りも持てるようになってきていて。このスタンスが自分の在り方なのだと思うようになっていた。だから前のように、太刀川が隊を作ったと言っても噛みつくような事はなかった。当たり前のように話を続ける事が出来ている。
 夜にとって大きな進歩だ。

「隊出来たら紹介して下さいよ」

 そうも言えるようになっていた。太刀川が自分の隊員として認める面子がどんなものなのか、夜は純粋に興味を持った。きっと癖のあるメンバーなのではないかと思う。まだ正式に太刀川隊として発足しているのではないようだけれど、この様子だと近々に出来上がるのだろう。

「仕方ねえ、一番に教えてやるよ」
「いや、一番じゃなくていいや」

 一番という言葉に重みを感じて、夜は首を振った。特別な気がして嫌ではないが、責任感も一緒に背負わなければいけないようで。そんな重みはいらない。太刀川にそんな気は更々ないのだが、夜の感じ方の問題だ。
 太刀川はそれでも一番に教える気で居て、だが夜にそう教える事はなかった。夜は妙な面で頑固な所がある。こんな事で論争したくもない。いつ夜に教えようが何番に教えようが最終的には太刀川の自由だし、夜もそこまで言及する事はないだろう。

「お前はどうなんだ、やっぱり隊作る気はないのか?」
「ないですね」

 夜ははっきり太刀川の言葉を否定した。前述の通り、夜は今のスタンスを是と思っている。今のスタイルを変える気はなかった。太刀川に太刀川のやり方があるように、夜にも夜のやり方がある。在り方は千差万別で、ある程度の自由は許されていいはずだ。ボーダーが全てに於いてガチガチに縛られた組織なら、夜はきっと在籍していない。役目は果たす、作られたルールも守る。それでも、その中にも自由はある。そんなボーダーが夜は好きだ。ボーダーで働く人間も好きだ。その思想は皆完全に同じ方を向いているわけではない、けれど、それでいいのだ。全く同じ考えの人間なんて存在しない。認められるか、否かだ。ならば夜は、認められる人間であろうと思う。自分と全く違う思いの人間が居るとして、それはそれで別の考えとして認めてしまえばいい事。参考になる場合もある。

「まあ、お前ならフリーでもやっていけるもんな」

 褒められた、のだろうか。それならば嬉しい。太刀川は文句なしに強い。そんな男に褒められたなら、夜も頑張っている甲斐があるというものだ。
 実際、夜はフリーでよくやっている。ヘルプには定評があるし、フリーでも中々に忙しい。学業もこなしつつの任務は大変ではあるが、夜はやりがいがあって好きだった。

「私には私のやり方があるって、思うから」
「頑張れよ」

 太刀川は最後にそう言っていつかのように夜の頭に手を乗せ、そうして去って行った。夜は隊員を紹介して貰えるのを楽しみに、けれどそれは言葉にせずにただ「有難うございます」と太刀川の背中に向かって声を上げた。


十年後の私へ
 ついに太刀川さんの隊が出来上がりそうです。きっと強い隊になるんだと思う。一緒に任務に行けたりしたらいいな。貴女は一緒に任務を熟したりしているの? 貴女はどれだけ強くなっているんだろう。強くなっていたらいいな。その為に頑張るのが、今の私の仕事だよね。太刀川さんにも迅さんにも、他の皆にも気持ち位は負けないように。私は私として、頑張っていくよ。貴女にも笑われないように。


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