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14.霞む花

「五条先生、やっぱり俺が送っていきます」

 郁が門の前で待つ五条の元へ辿りつく。五条はすぐ帰す気はないようで、立ったまま少しお喋りをする。三人の事を聞かれ、素直に皆良い人そうだと答える郁。どこか他人行儀なのは無意識だ。
 そこに現れたのが伏黒だった。伏黒が五条に声をかけると、その顔はにやりと笑った、ように見えた。読まれていた、声をかけてから伏黒は若干後悔した。意図的に郁を足止めしていたのだろう。何も分からず居るのは郁のみだ。

「恵は悠仁たちと話してたでしょ、今日は僕が送っていくから気にしないでよ」

 いやらしい。そう言われてしまうと、伏黒は何も言えなくなってしまう。まず前提として、何故郁を追いかけたのか。五条の言う通りだ、虎杖たちと話していれば良かったではないか。特に郁に用事があったのでもない、送るだけなら五条で事足りる。
 分かっていても足が動いてしまったのだ。追いかけてしまったのだ。何となく。そう、何となくだ。必ず結論が欲しい等という事はない。感情の動きは、時に不可解だ。さて、どうしようか。伏黒は考える。相変わらず何を言えばいいかは浮かんでこない。
 五条の表情が一瞬柔らかくなる。伏黒も郁も、気づいていない。それほど自然なものだった。隠された目元も要因の一つかもしれない。

「そうだ僕、用事があったんだった」

 ぽん、と手を叩く仕草をする五条。態とらしい、伏黒はそう思った。けれどそうさせたのは伏黒なのだ。きっと五条は全て計算して、全て読んでいて。人を動かすのが上手いのかもしれない。考えて、認めたくはないが、というのを落としどころにした。ここで立っていても何も進まない。伏黒は、五条の策略に乗る事にする。
 いくぞ、と郁に話しかける伏黒。五条が「気を付けてね」とひらひら手を振っていたが無視した。郁はといえば、五条に一つ礼をして伏黒の後ろをついていく。どうあっても礼儀正しい、郁はどんな場面でも郁だ。
 送っていくと言ったものの、用は特にない。二人はしばし無言で歩く。ふと立ち止まる伏黒、つられて足を止める郁。伏黒は少しだけ体を斜めにした。郁の目に伏黒の横顔が映る。

「俺は」

 俺は友達じゃねえの。伏黒の言葉だ。何故そんな事を口にしたのか分からない。無言に耐えられなかったなどという事はない。寧ろそれを言う事で余計無言になりそうな質問。けれど口から出てしまった言葉を戻す事は出来ない。それでもあまりに唐突だったかと一瞬で思考を変えた伏黒が訂正の言葉を言おうと口を開きかけた時。先に声を発したのは郁だった。

「ああ、やきもちだ」
「そんなんじゃねえよ」

 からかうような郁の態度に、伏黒は少しだけ苛立ちを覚える。何故だろう。思いを置き去りに、口はしっかりと動いていた。反射神経の良さに伏黒自身驚きだ。郁はどこか満足そうにしている。気まずくなるのは伏黒ばかりだ。
 本当に何を言っているのか、若干頭が痛くなる。この痛みに、何か意味はあるのだろうか。きっと郁は何も考えていない。伏黒は思うのだ。ただ遊んでいるだけなのだろうと。

「伏黒くんはそうだなあ。友達じゃないかもね」
「あ、そ」

 いざ言葉にされると、一端に落胆に近い思いを抱く伏黒が居た。友達、そう言われる事を期待していたのだろうか。らしくもない。そんな事を思った。関係なんてどうでもいい。する事は変わらないのだから。そう、余計な関わりなど誰も望んでいないのだ。伏黒も、多分。郁も、きっと。
 そんな伏黒の思考など微塵も察さず、郁は言葉を続ける。

「んん。違うな、友達ではある」

 先ほどとは真逆の事を言う。伏黒は思わず「あんのかよ」と突っ込んでしまった。郁の言わんとする事が理解出来ない。ただ、楽しそうなのは伏黒にも分かった。伏黒でなくても、それこそ会ったばかりの虎杖や野薔薇の目にでさえそう映るだろう。鼻歌でも歌い出しそうだ。郁の様子を見れば楽しそうなのは良い事だとでも思えばいいのだろうが、話題が伏黒の事なので対象にされている本人は素直に喜べない。
 郁はまた続ける。

「あるよ。でも虎杖くんや野薔薇ちゃんとはちょっと違う」
「あいつらはまだ会ったばっかじゃねえか」

 伏黒の言葉に、郁は確かに、と頷いた。その通り、なのだが郁の言いたい事はそういう事ではない。少しずつ伏黒に対する感情が変わってきている。最初は認めようとしなかった。単純に迷惑でしかないと思ったのだ。それでも抱いてしまった感情は消す事など出来ない。結果、郁はそれを大事に大事に胸の中で温めている。

「もっと仲良くなりたいなあ」
「夏目ならすぐ打ち解けるだろ」

 そうかなあ、と一言。郁のもっとの中に伏黒も含まれている事を、本人は気付いていない。どうしたら伏黒との距離がもっと縮まるのか、郁に良い案は思いつかなかった。伏黒が虎杖や野薔薇と仲良くなれるイメージは何となく沸く。けれど郁はどうだろう。
 郁は意識していないのだ。伏黒が今日に限って五条の役割を半ば無理矢理奪った事を。二人は、どこまでもすれ違う。
 そうこうしているうちに郁の家の前だった。いつも以上に短く感じた、時間と距離。

「じゃあ、またな」
「うん。有難う」

 伏黒の背中が遠くなってゆく。

「……違うんだなあ」

 郁の言葉は誰にも届く事なく消えた。


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