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11話 ぶるーべりー

「米屋くん、ちょっと相談してもいい?」
「あいつの事?」
「流石、察しがいい」

 出水がボーダーの任務で休んだ日、ここぞとばかりに葵は米屋に相談を持ち掛けていた。日々悩んでいる事について。米屋なら、的確なアドバイスをしてくれると思った。成績はお世辞にも良いといえない米屋だけれど、頭の回転の速さに関しては信頼している。

 他人に言えばそれもどうかと言われるかもしれないけれど、少なくとも葵の中ではそれは高評価に値する。米屋は何だかんだ、面倒見がいい。そして出水と共にしている時間は葵より米屋の方が圧倒的に長い。何もかもに於いて、相談するなら米屋だろうと思った。

 一人で考えるのは、限界だ。

「大体わかるわ、あいつが鈍感なだけだろ」

 案の定、米屋は葵の言いたい事がわかったようで、今日は主の居ない椅子に腰かけて机に頬杖をついて葵の方に顔を向けた。
 察しが良いのは本当に有難い。葵としても気持ちを隠している心算はないので本心では出水が手っ取り早く気づいてくれればいいのにと思っている。思っている反面、気づいて欲しくないと思う自分もいて、葵は自分の事がわからない。現状に満足していないわけではないのだ。

「だよねえ。手紙でも書いてみればいいのかね」

 葵も頬杖をついて米屋の方へ向く。言ってみたものの手紙なんて書ける気がしなかった。何を書いたらいいのかさっぱりだ。書いた所で、出水は揶揄ってるんだろうなんて言ってきそうだとも思う。
 いつもの葵の言動は、そう思わせるに十分なものだ。

「随分オーソドックスな案出してきたな」
「手紙なんて書ける気がしないよ」
「じゃあ何で提案したの」

 だから正直にそう言えば、ごもっともな反論を受けてしまった。まさしくその通りなので否定は出来ない。だから、「オーソドックスじゃん?」と先ほど米屋から受けた言葉を引用させて貰った。

「そのまんまなのな」

 と米屋。深く掘り下げる気はないようで、軽く受け流す。こういう所も、有難い。米屋は色々いい加減な所もあるけれど、友達として信用していた。

「でもさ、好きだよ。それは隠さない。でもああ……私大分歪んでるかも」

 だから思ったままを口にする。これから言う事で呆れられるかもしれない、けれど言うべき事だと葵は判断した。

「何で?」
「いつかまた近界民? が強襲してきてさ。私が死んだとするじゃん? その時に、あああの子の事好きだった、って。思って貰いたいんだよね」

 米屋の問いに一呼吸おいて、葵は話しだした。それは今まで誰にも言った事のない気持ち。好きの形はひとつではない。勿論、出水も自分を好いてくれて付き合えたりしたら、と思う事もある。
 けれどボーダーという繋がりがある米屋と違って葵が持っているアドバンテージは隣の席であるという事だけ。席替えがあったら、会話する機会もぐっと減ってしまうかもしれない。そんな中、出水は自分に振り向いてくれるのだろうかと、葵は思う。どうも消極的に考えてしまうのは、恋愛に慣れていないだけか、その独特の価値観から来るものか。

「大分歪んでんな」
「そうでしょう? ふふふ」
「笑うところなのか? それ」

 米屋が呆れたように言う。それもそうだ。葵本人ですらよく分からないその感情。他人が聞いた所で理解してなど貰えないだろう。だから割り切るのだ。笑って、割り切ろうと誤魔化す。

「……後悔はすんなよな」

 しかし米屋には葵がわざと笑って誤魔化しているのが伝わったようで、出てきたのは心配する言葉だった。それには流石に葵もわざとらしい笑顔を引っ込める。

「……しないよ」

 目を細めて、大人びた笑顔を浮かべる葵。初めて見た葵の表情に、米屋は少々面食らった。そして、それを見るに相応しいのは自分ではなく出水ではないかと思う。

「どうかなあ。今一信用できねえんだよ」
「米屋くんに信用されないんじゃ出水くんには到底無理かなあ」

 複雑な感情を抱えながら言う米屋に、葵は思案しながら答えた。もう表情は年相応のそれに戻っている。

「おれは基準にはならねえよ?」
「知ってる」

 ふふふ、と葵はまた笑った。先ほどから笑っているが、何か引っかかっているような気がするのは米屋の勘違いではない。葵は本心を隠すのが上手い。米屋はそれが分かっていてこの会話に付き合っている。計算違いがあるとすれば、歪んだ気持ちを打ち明けられた事か。

「あれ? ちょっと弄られてる?」
「そんな事ないない。そもそも弄るくらいなら米屋くんにこんな相談しないよ」

 流れはお道化る方に向いていった。これくらいが丁度いいだろう。自分に全て話しても、出水に話す事が出来ないと意味はないだろうと米屋は思っている。
 手助けとして出来るのは話を聞く事くらいだ。橋渡しをしてやる心算は、米屋にはない。

「まあそうか」
「そうそう」
「でもさ」

 でも、それでも。これは言っておかなければいけないだろうと米屋は思った。これが米屋の最大限の助言だ。

「ん?」
「はっきり言った方が良いと思うぜ。多分気づかないから。寧ろ米屋と遠野仲良いなとか思ってるぞあいつ」

 出水とて無自覚かもしれないが葵に気持ちが向いていると、少なくとも米屋は思っている。勘だが、間違ってはいないだろう。そこで自分が巻き込まれるのは、米屋とてごめん被りたい。

「それも事実じゃん」
「事実だけど、違うだろ」
「うーん……」

 葵は今一自分の置かれている状況を把握出来ないようで唸っている。これはもう少し背中を押してやった方が良さそうだ。そう思った米屋は、少しだけ角度を変えて言葉を繋ぐ。

「今の関係が崩れるのが怖いとか、そんなの心配する奴じゃねえじゃん? 遠野って」
「弄ってる?」

 葵はまた米屋の言葉を引用して答えた。思ったよりも深刻な方向に話が進んでいて、葵は驚いている。ここまで真剣な話になるとは、正直思ってなかった。けれど、米屋に話した事を後悔はしていない。

「ねえよ。とにかく言わねえと始まらねえんだから」
「うん、ありがと」

 はっきり言い切る米屋に、葵は感謝の言葉を口にした。そうしたら「いーえ」となんでもない事のように米屋が言うから、それに葵は救われる。
 行動を起こす事に意味がある、とは誰の言葉だったか。葵の気持ちはまだあやふやで、それでもいつかは、と思えたのは米屋のおかげで。

 出水に会いたい、そう思った。



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