「…ひゃぁっ!あ、ん…っ」
「…て…っ!」
「…ぁ、すみま、せん…っ」
与えられた強い快楽に、黒子は思わず火神の背中に爪を立てた。
火神が痛みに顔を顰めたのを見ると、満足に息もできないような状態で、それでも申し訳なさそうに謝ってくる。
そんな健気な姿を見せられて、喜ばない男がいるだろうか。
「…大したことねーから、気にすんな」
「…なに、笑ってるん、ですか…っ?」
蕩けるような笑みを浮かべた火神は、コツン、と、黒子の額に己のそれを優しくぶつけながら言う。
「…いや、こんな風に普段から素直にしてりゃ可愛いのによ、って思って…」
「…余計な、お世話…です…っ!」
からかわれたと思ったのだろう、火神の照れ隠しの台詞に、黒子はむすっと唇を尖らせた。
「い、て…っ!?」
そして、今度は明確な意図を持って、火神の肩口をひっかいてみせた。
「痛てーだろうが!何すんだっ!」
「…火神君が、可愛くないこと言うからです」
がなる火神に、ふふん、と得意そうに黒子は笑う。
その愛らしくも生意気な態度を目にした火神は――あぁ、もう降参だ。何だこの可愛い生き物は――そんな気持ちで、黒子の首筋に顔を埋めた。
「…まったく、猫かお前は」
「…猫、ですか…?」
「意地っぱりで意外とプライド高くて、そのくせ自分の気が向いた時には甘えてきやがって…まんまじゃねーか」
「…あ、でも…」
「…でも?」
「青峰君には、お前は犬っぽいって言われ……ぁ」
思わずポロリとこぼれてしまった言葉に黒子はしまった、と顔を青ざめさせ、火神は面白くなさそうに目を眇めた。
それはそうだろう、恋人にベッドの上で他の男を引き合いに出され、気分を害さないはずもない――それが、相手の『元恋人』そして『今も大切に想う相手』であるなら、尚更だ。
「…へぇ?青峰に言われたって?…いつ、どんな場面で言われたんだかなぁ?」
「ご、ごめんなさ……や、ちょっ、まっ…きゃぅっ!」
「…確かに、鳴き声は子犬っぽいかもな…」
でもだからって、こんな時にアイツのこと思い出したの、許さねーからな。
「も…、やぁ…っ!」
耳元で囁きながら乱暴に突き上げてやると、黒子は子供のようにいやいやと首を振り、許しを請うような目で火神を見上げてくる。
(…なるほど、犬か……まぁ、それもいいけどよ)
でも残念ながら、火神は犬より猫派なのである。
可愛いわがままに振り回されるのが好き。そっけなさに慌てふためきながら、ご機嫌伺いするのが好き。たまに素直に甘えてくる、その姿が好き。
「…覚悟しろよ。青峰のこと思い出す余裕なんか吹っ飛んじまうくらい、めちゃくちゃにしてやる…っ」
「…や、かがみっ、く…あんっ、あ、あぁぁっ!」
そして、爪を立てられながらも、高慢な姫君の鼻っ柱をへし折って、その気高い瞳が快楽でドロドロに蕩けるまで思う存分翻弄してやるのが、たまらなく好きだから。





――なんて話はさておき。
「…まぁ、そんなことは関係ねーだろうし」
「…あるわけないでしょう」
ベッドルームから場所を移動して、ここは火神家のリビングだ。
その隅に置かれたソファに腰掛けた火神と黒子は、そろってため息をついた。
憂いの原因は1つ、黒子の膝の上に抱かれた、黒子(小)である。
置きっぱなしになっていた黒子のシャツを身にまとい、物珍しげに部屋の中を眺め回している子供。
その正体も不明なら、火神を知っていた理由も不明だし――何より、なぜ黒子を「ママ」などと呼んだのか。
もちろん本人に尋ねてはみたが、不思議そうな表情で小首を傾げるばかりで、ヒントの欠片すら出てこない。
「…まぁ、こうして考えてても仕方ねーし、何か腹に入れるか」
「……火神君のその切り替えの早さ、ボクは好きですよ」
「…うるせー、単純で悪かったな」
火神は黒子の呆れたような褒め言葉に憎まれ口を返しながらキッチンへと向かい、すぐにカップを持って戻ってきた。
「メシできるまで時間かかるから、これでも飲んでろ……ほら、お前も」
火神が黒子とその膝の上の子供に差し出したのは、ココアだった。
「ありがとうございます。…はい、零さないように、気を付けてくださいね」
そう優しく言いながら、黒子は自分の縮小版のような子供に、そっとカップを持たせてやる。
「…大丈夫ですかね。猫っぽいし、やっぱり猫舌なんでしょうか…」
「…ねこじた?」
「熱いのが苦手ってことですよ。だから、ふーふーして冷ましてから飲みましょうね」
「ふーふー?」
「そう、ふーふー。できますか?」
「ふーふー、ママも!」
「…ま、ママ……まぁ、いいですけど」
ママという呼称に納得はできずとも、子供相手にムキになるような黒子ではない。
苦笑を浮かべながら、カップの中身に息を吹きかけてやっている――姿を見て、身悶えている男がここに1人。
(…やばい、やばいやばいやばいやばいやばい…っ!!!)
可愛い可愛いすぎるだろう!と、火神のラブ黒子メーターは降りきれる寸前だ。
「…火神君?」
「かがみくーん?」
挙動不審な火神に向けられた、2対の大きな瞳。
「…く、黒子ぉぉっ!!」
そのキョトンとした、まるで小動物のような愛らしさ×2に火神はついに堪らなくなり、2人まとめて抱きしめようと腕を広げたところで――
ぴろぴろぴろぴろぴろぴろ!
「うおっ!?」
「あ、着信です。…すみません、出てもいいですか?」
――空気を読まない電子音に、問答無用で愛の交歓を邪魔されてしまった。
「はい、黒子で……あれ、青峰君、土曜なのに珍しく早起きですね、どうしました?」
しかもよりによってあのガングロかよ、と、火神の内心は穏やかではない。
「え?ボクの家に行ったんですか?…えぇ、すみませんそうなんです、母から聞いたとは思いますが、今日は朝から火神君の所にお邪魔してて……は?来てる?ここにですか?」
漏れ聞こえる会話の断片に、火神は思わず眉を顰めた。
「…なんだよ、アイツここに来てるって?」
「…そうみたいなんです。何でも、至急の用件があるらしくって……って、もしもし青峰君!?…ちょ、すぐ開けてもらいますから、警備員さんに暴力振るうのはやめてくださいっ!!」
「…何やってんだあのバカ」
無視してやりたいのは山々だが、このままだと自分がマンションから追い出されることになりかねないと、火神はため息をつきながら嫌々立ち上がった。


「テツ、テツはどこだっ!?」
無事火神の部屋までやってきた青峰は、ドアを抜けた途端、黒子を求めて勝手に奥へと入って行ってしまった。
「…お前な、まずは家主のオレに挨拶の1つくらい……って、お前、それ!?」
あまりに遠慮のない態度に、火神が文句の一つも言いたくなったのは仕方のないことだろう。
しかし、その苦情は最後まで紡がれることなく、驚愕の叫びへと変わった。
青峰が腕に抱いた、『ソレ』
シーツのようなものにくるまっていたので、しかとは確認できなかったが、もし火神の見間違いでないとしたら…。
「…マジかよ、おい…っ」
一瞬、驚きに身を固めた火神だったが、すぐに我に返り青峰の後を追った。
そして、引き返したリビングで火神が目にしたもの、それは、
まず、驚きに目を見開いた黒子。
その足元にひっつき、突然の侵入者に警戒した様子を見せる黒子(小)
対するは、戸惑いの表情を浮かべた青峰。
そして、その腕に抱かれた、黒子――(小その2)――だった。
「…えええええぇぇぇぇっ!?」
「あ、青峰君、その子…っ」
「…なんか、今朝起きたらオレのベッドの中にいて……どう見てもテツだったから、はじめはお前が小さくなっちまったのかと思ったんだけどよ…」
身に覚えのある展開に、火神は思わず息を呑みこんだ。
「…でもほら、こいつの頭見て見ろよ」
そう言って青峰が黒子(小その2)の頭にかぶせていたシーツを取っ払うと、そこにあったのは、
「…ケモノ耳…っ!」
「…尻尾もあるんだぜ?…形から見るに、たぶん犬だろうな」
『あぁ、やっぱり!!』
思わず声を揃えて叫んだ黒子と火神に、青峰は不思議そうに首を傾げている。
「…やっぱりって何だよ」
そんな疑問に応える為、黒子は自分の足元に視線を落とした。
「…え?テツがもう1人…じゃねぇ、2人…っ!?」
そう、これで合わせて3人(1人と2匹?)になりましたね。
「ど、どういうことだよっ!?」
「知るかよ!こっちだってついさっきまでパニック状態で、ようやく冷静になれたとこだったのによ……ちくしょう、更にややこしい問題持ち込みやがってこのガングロ野郎がっ!」
「あん?んなの知るか!つーかてめぇには聞いてねーよこの二股眉毛野郎っ!」
大声で罵り合い、ヒートアップする特大の男2人に、黒子(子猫)と黒子(子犬)は、ぴるぴるとその小さな体を震えさせている。
それをかわいそうに思った黒子は、黒子(子猫)の横に膝をつき、胸元に抱きしめてやってから、黒子(子犬)にも腕を伸ばした。
「…ほら、おいで」
それを見た黒子(子犬)は青峰の腕の中でじたばたと暴れ、
「うぉっ!?こら、あぶねーだろ!」
青峰が一瞬ひるんだ隙に床に飛び降りると、そのまま黒子へと飛びついた。
「…ママ…っ!」
「またですか…っ!?」
嫌な予想ほど当たるもの。
案の定思っていた通りの展開になってしまい、黒子は感じた眩暈を押し込めるように目をつぶった。
それでも、腕の中に飛び込んできた小さな子供はしっかり抱きとめてやったのだから、黒子には間違いなく保父さんの素質があるに違いない――うん、間違いないですよね!
「……テツ?え…ママって…え…っ!?」
「…聞きたくないけど、一応聞いてあげます……青峰君、どうしました?」
「…お前、そう言うことは早く言えよ!いつオレの子供産んで…」
「…ほんっと、キミたちってどうしようもない位そっくりですよねこのアホ峰がっ!!」
子供2人から手を離し、そのまま華麗に身を翻した黒子の本日2度目のイグナイトは、それはそれは見事に極まったという。




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