午前8時13分。
寝ぼけ眼で時計を確認した火神は、再び目を閉じた。
今日は部活の練習もないので、もう少し朝寝を満喫するつもりなのだ。
午前中のうちに黒子が来る予定になってはいたが、すでに合鍵は渡してあるし、寝起きを見られて困る様な間柄でもないので、問題ないだろう。
そう思いながら、火神はゴロリと寝返りをうち――うったところで、ベッドの中にある自分以外のぬくもりに気付き、ギョッと目を見開いた。
(…黒子……ではないはず)
昨夜は泊まっていかなかったはずだし、約束の時間にはまだ早すぎる。
ならばまさかアレックスか!?と、過去に受けた衝撃を思い出し、冷や汗をかきながら火神はそうっとかけ布団をめくった。
しかしそこから覗いたのは金髪ではなく、火神が愛してやまない水色の猫っ毛で。
火神はそのことにほっと安堵しながら、自分の顔の筋肉が緩んでいくのを止められなかった。
(…なんだよ、こっそりもぐりこんだのか?ったく、しょーがねー奴)
そんな火神の思考を要約すると、『この可愛い奴め!』ということになる。
そっけなかったり気まぐれだったり、いつも自分を翻弄するくせに、時々べったり甘えてくる。
意地っ張りのくせに甘えた――まるで猫のような黒子の気質が、火神は可愛くて可愛くて仕方ないのだ。
「…おい、黒子、起きろって」
てめー、勝手に入り込みやがって、何されても文句ねーだろうな?
にやりと意地の悪い笑みを浮かべながら、火神は伸ばした腕に黒子を抱き締め、
「……?」
そこで違和感に気付き、その個性的な形の眉根を寄せた。
まず、黒子は服をまとっていなかった。
(……え?さ、誘われてる?)
珍しいこともあるもんだと、火神は驚きに目を見開いた。
一度行為にもつれ込めば、火神の腕の中で愛らしく乱れてみせる黒子だが、体力のなさも相まってか、性的なことに関しては基本とても淡泊である。
キスやハグはむしろ黒子の方からねだられることが多いのだが、それだけで満足してしまう彼をその気にさせるのは、中々に大変な事なのだ。
でもまぁ、黒子とて男なのだから、溜まることもあれば無性にヤりたくなるという事もあるだろう。
そういう事なら、火神としては勿論ウエルカムだ。
――しかし、問題はもう1つあった。
(…なんか、いつも以上に小さくね?)
火神やキセキの世代(一部抜かす)の横にいると、ものすごく小柄に見えてしまう黒子だが、実際には男子高校生の平均身長を、一応クリアしていたりする。
大きすぎず小さすぎずな体は火神の腕にちょうどフィットして、それがまた男心をくすぐってやまない――はずだったのに、今の黒子ときたら、片腕があまってしまうほどだ。
「…おい、黒子…?…って、ええぇぇぇっ!?」
違和感を持て余したまま、かけ布団を剥いだ火神の口から出たのは、絶叫だった。
そう、そこいたのは確かに黒子だった――3歳児ほどのサイズで、更には猫のような耳と尻尾がついているというその違いをのぞけば、の話だが。
「く、黒子っ!?」
「…かがみくん、うるさいです…」
一体何事かと、慌てて細すぎる肩を揺さぶった火神に、黒子(仮)はむにゃむにゃと半ば寝ぼけながら、不満を訴えてきた。
それは実にいつもの黒子らしい反応だったが、その声ときたら――変声期前なのだろう、鈴を転がすようなと言ったらいいのだろうか、まるで少女のように愛らしいものだった。
「うるさいって…それどころじゃねーだろっ!お前どうしちまったんだよ!?」
「…ふぁ?」
どう考えても、黒子が小さくなってしまったとしか思えない現状(しかも何故か猫耳と尻尾つき)に、火神はパニック状態。
しかしそんな彼を尻目に、黒子(仮)はのんびりとしたものである。
こしょこしょと目をこすりながら体を起こし、小さな口で小さなあくびをしてみせた。
「…うぉ、かわいいっ!…って、だからそれどころじゃねーんだって!!」
思わず本音を漏らしてしまった自分を戒めつつ、火神は真面目に問い質そうと、黒子(仮)の肩に両手をかけた――ところで、
「…火神君、まだ寝てますか?」
「……え?」
「入っていいですか?すみません、ちょっと早めに来て…」
ノックの後、そう言いながらベッドルームに顔を覗かせたのは、黒子(本体?)だった。
「…しまい、まし…た……?」
黒子は途切れ途切れに言葉を紡ぎながら、火神と、火神が腕の中に閉じ込めている人物の姿に目を瞠り、
「……火神、君…?」
「…な、なんだ…?」
どうしていいか分からずそう問い返した火神に、すうっと冷たく目を細め、一言。
「…ボク、今この時をもってキミの影をやめさせてもらいます……この、変態ペド野郎」
「ちょっ、どんな勘違いしてんだお前っ!!?」
相棒であり恋人でもある相手にとんでもない疑いをかけられ、火神は慌てて黒子に駆け寄った。
「…触らないでください。変態がうつったらどうするんですか」
「だから誤解だって言ってんだろっ!?」
「…誤解?じゃあ、あんなに小さい子供をベッドに連れ込んだあげく裸に剥いて、一体ナニしてたって言うんですか」
「何もしてねーよ!つーか他にもっとツッこむことあんだろ!あのガキよく見てみろって!」
「……はぁ?」
火神の必死の訴えに、黒子はベッドへと再び視線を向ける。
そして、先ほどから自分たちのやり取りを不思議そうに見つめている子供の姿に、首を傾げた。
「……アレ?どこかで見たことがあるような…?」
「見たことあるどころじゃねーだろ!アイツ、まんまお前じゃねーか!」
「……あっ」
そこでようやく気付いたらしい、黒子の目が驚きに見開かれていった。
「…ど、どういう事ですか…っ!?」
「知るかよ!起きた時にはこいつがいて…っ」
流石に狼狽した様子で尋ねてくる黒子。しかし残念ながら、返す答えを持っていない火神は一緒になって狼狽えることしかできない。
そんな彼らのやりとりに何を思ったのか、それまでじっと大人しくしていた黒子(小)がベッドから降り、そのまま2人に向かってテテテ…、と走り寄って来た。
「…な、なんだ!?」
「……どうしました?」
相手がナニモノかは分からないが、小さい子供であることにかわりはない。
黒子は、おっかなびっくりの火神をよそに、やわらかい笑みを浮かべながら、子供の視線に合わせるように膝をついた。
(…こいつ、子供慣れしてんな。ってか、子供相手にしてんのが、違和感ゼロっていうか…)
そう、黒子と黒子(小)の組み合わせすは実に愛らしく、
(………聖女と天使?)
というのが、火神の正直な感想だったりする。
「…ま……ま?」
「…はい?」
「ママっ!」
「はいっ!?」
オレの相棒は相変わらず可愛いモードの火神の目の前でかわされた、そんな会話。
「…か、火神君、これって…っ」
黒子(小)に抱きつかれ、戸惑いの表情を浮かべながら助けを求めた黒子に返されたのは、火神の怖い程真剣な眼差しだった。
「…黒子…お前…っ」
「…火神君?」
「何でもっと早く言わねーんだよ!これはオレたち2人の問題だろうが!」
「……すみません、何の話ですか?」
訝しげに眉をよせた黒子を見つめながら、火神はビシっと黒子(小)に指を突きつけてみせる。
「コイツの事だよ!お前、いつオレの子供産んで…」
「…んなわけないでしょ頭かち割られたいんですかこのバカガミがっ!!」
レアな黒子の絶叫と共に、火神の鳩尾にイグナイトが極まった。




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