その時、降旗、河原、福田の一年生トリオは、『可愛い男の娘そろってます!遊びにきてね☆』と書かれたビラを手に、校舎内を回っているところだった。
「…うわぁ、一般客の入場はじまったんだな」
「うぅっ、増えつつある人の視線が、更に痛い…」
そんな会話を交わす彼らは、そろいのメイド服を着て、頭には猫耳をつけていたりする。河原などは坊主頭のままなので、中々にシュールな光景だ。
「…火神の奴、ひとりだけメイドから逃れやがってズリーよな。オレも調理担当したかった…」
「まぁ、そう言うなって。ムキムキ野郎の女装姿が、1つでも減ったんだと思えば…」
「…うちの模擬店、ちょっとした視覚テロ状態だもんな…なんで女子はアレにきゃーきゃー言えんのか、マジわかんねー」
「そーだよな、何が楽しいんだか…似合ってんならまだしも」
「…バカ言うなって、そもそも男子高生に女装が似合うはず…」
そこでふと、彼らの愚痴がピタリと止まった。
無言のまま3人揃って思い浮かべたのは、水色の髪をした、チームメイトの姿だ。
「…ごめん、いたな、似合ってるやつ」
「いや、アレは似合ってるとかいうレベルじゃ…」
「…うん」
そこで再び、短い沈黙。
「…今、ここだけの話にしてほしいんだけど…」
やがて、そう前置きしてから話し始めたのは、降旗だった。
「…オレ実は、アイツのこと、ちょっと可愛いかもと思ったことがあって…」
「…オレもだ。だってそこいらの女子より色白いし、目もでっかいし…なんか、いい匂いするし」
「…やめろお前ら、それ以上言うな!オレはソッチの扉開きたくねーよ!」
キセキの世代みたくはなりたくないと顔色も悪く叫ぶ福田に、降旗は遠い目をしながら呟きを返した。
「…でもオレさ、キセキの連中に、ちょっとだけ同情もしてるんだよな」
「…はぁ?」
「何言ってんだよお前」
「…だって考えてもみろよ。中学時代の黒子って、今より小さくって細かったわけだろ?声変わりしてたかもあやしいし、今以上にフワフワしていろいろ頼りなかったわけじゃん。…そんな黒子が試合中に緊張して転んで鼻血出したり、それでもめげずにフラフラになるまで一生懸命練習してたり、ちょっとずつ自信つけて百戦錬磨になっていく姿とか、間近で見てたわけだし…」
あまつさえ、刷り込みされたヒヨコのように懐かれたり、子犬のようにキャンキャン噛みつかれたり、はたまた稀有な原石を自分の手で磨き上げる喜びを知ってしまったら――
「…そりゃ、ネジの1本や2本、緩んでもしかたねーかな、って」
「……」
「……」
彼らは、キセキの世代と黒子の間に何があったか、その全てを知っているわけではない。
しかし降旗の言葉を元に、いろいろ想像してみた結果――それだけで、キセキの世代が黒子に執着する理由が、理解できてしまうような気がした。
その切っても切れない因縁は、彼らにとって幸福なことであり、不幸なことでもあるのだろう。
「…オレたちはさ」
「…うん?」
「オレたちは、ずっと普通の友達でいてやろうな。同じレベルには追い付けなくても、どんなことにも一緒に立ち向かえる、いいチームメイトでいような」
「…そうだよな。黒子がオレたちのこと信頼してくれてるのに、変に意識しちゃ悪いもんな!」
「よし、もう2度とあいつのこと、可愛いなんて言わねーし」
男らしく熱く燃え上がった友情に、ガッシリ手を握り合う3人。
その直後だった。
「…あ、3人とも、ここにいたんですね」
ほっとしたニュアンスが強いそんな言葉をかけられ、顔を向けた先にいたのは、
「………え?」
彼ら3人の――いや、その場にいた全ての人間の視線を一瞬で奪ってしまった、価値のありそうなアンティーク人形を腕に抱いた妖精――いや天使――いやいや、
「くろ…こぉぉぉぉぉぉぉ…っ!!?」
そう、黒子だった。
もういい加減、そのドレス姿にも見慣れたと思っていたのに、さきほどまではなかった本物の人形というオプションのせいか、幼さと作り物めいた魅力が更に強調されていて――
「…なんか、たくさんの人に声かけられるし、勝手に写真とられるし……あげく、知らないおじさんにお金渡されて、連れて行かれそうになったり…」
ちょっと待て、それって普通に犯罪だよね!
そんなツッコミを頭に思い浮かべながらも、3人にはそれを口にする余裕すらなかった。
「…正直、ちょっと怖かったので……みんなと会えて、本当に良かったです」
眉尻を下げた頼りない表情で、ふんわりと微笑む黒子。
『……ごめん、やっぱ可愛い…』
安心しきった甘くやわらかい笑みを前にして、さきほどの誓いをあっさり破り、3人声を揃えてそう呟いてしまったとしても――そこに、罪はないはずだ。多分。





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