06
おそらくあまり頭のよくない転入生は、それでもあの人の言葉の冷淡さを感じたのだろう、彼が言葉を切った途端に再び喚きだした。
「そうだ! 俺が慧斗と仲良いからって嫉妬したんだろ!! でも俺は絶対負けないからな!!」
肩をいからせてそう宣言した彼はあの人に向き直ると、気分が悪くなるほどの猫撫で声であの人に擦り寄る。その様子があまりにも不快で、思わず目を逸らした。
「なぁ慧斗、言ったとおりだろ? こいつら親衛隊は悪い奴らだから、いちゃいけないって! 人を傷つける集団なんてサイテーだ!!」
「…ああ、そうだな春樹」
彼の同意に他の生徒会役員が続く。
「ほら言ったでしょう、所詮君には何の力も無いんですよ」
「大好きなカイチョー様にも見捨てられちゃったねー」
「「みっじめー」」
「いい…気味……」
好き勝手なことを言う役員の言葉は全て耳を通り抜けていく。
今、この場で聞く価値のある声は、ただ一つだ。
「―――八城瑞紀」
久方ぶりにあの人の声で呼ばれたその名は、まるで自分のものではないように感じた。
『みずき』
遠い昔に聞いた幼い声が頭の奥で蘇る。
貴方に呼ばれたことで初めて意味を持ったこの名を、貴方は今、僕を切り捨てるために再び呼ぶのだ。
「八条学園生徒会長八城慧斗の名において、お前をこの学園から追放する」
貴方が決めたことに否とは言わない。
「…お前はもう、いらない」
それが意味することを知っていても。
例えどんなに残酷な現実を生もうとも。
「そう、ですか」
貴方と交わした約束を、貴方自身はきっととうの昔に忘れていて、だからもう、時効でしょう。
僕にとってただひとりの貴方。
この世界に色を与えてくれた貴方の世界を褪せさせたくはないから。
僕は最初で最後、この一度だけ、貴方との約束を違える。
「―――さようなら」
さようなら、
僕の王様。