05
「…おい」
短いその音が自分に向けられたものだと咄嗟に悟り、顔を上げてあの人の顔を見る。
その整った秀麗な美貌を間近で見たのは実に二週間ぶりだろうか。転入生を側に置くようになってから、彼は親衛隊を――隊長の僕ですら、近くに寄ることを許さなかった。
転入生を気に入ったのもそうだろうし、彼を親衛隊の制裁から守るのも目的だったのだろう。僕が隊長に就任してからは制裁を全面的に禁止しているけれど、いつ隊員の不満が爆発するかわからない。
あの人は、決して無能ではない。
自分の隣にいることで転入生が被るであろう被害を誰よりよく理解していて、その上で彼を自ら守るとあの人自身が決めたのだ。
――あの人の影でしかない僕に、その意思を覆すことなどできるはずがないのに。
「…理事長から話を聞いた」
記憶にあるより幾分低く発せられたその声に、僕はすべてを理解した。
ああ。
僕は今から、裁かれる。
「春樹が転入してきてから続いていた制裁、全てお前の指示だったそうだな」
まさか。
貴方の心に沿わないことを僕がするはずがない。
「親衛隊員を脅して嫌がらせをしていたんだろう」
どうして。
そんなことをしても無意味だと、僕はよく解っている。
「終いには春樹に怪我までさせて…」
やはり。
僕の心は、いつだって貴方に届かない。
「―――お前には、失望した」
温度のない声音で放たれたその言葉が一瞬にして僕の存在意義を奪ったことに、あの人はきっと、気づかない。