イタ電から始まる百合ロマンス2
(突発短編)



 
―エピソード:バカ―


「ウザい」
「生理的にムリだし」
「ばかじゃね?」
「あんたって、なんで生きてんの?」
「いてもいなくてもどうでもいいよね」
「ねぇ、あんたって、生きてて何か楽しいことあんの?」
「意味ないでしょ、生きてたって」
「――どうして、アンタなんて生んだんだろう」
「いっそのこと、死ねば?」


死ねば?

死ねばしねばしねばシネバシネバシネバしねばシネシネシね

あたしなんて、死んじゃってもぜんぜんよくない?

「あ…あ……はは…っ。うん……うん。あたしなんて、生きててもしょうがないんだよね。だ、って、あたし、が、いて、うれしい人なんて、いやしないんだし」

くぐもった耳障りな笑い声が、あたししかいないリビングに響く。
このフローリングのリビングの上は、いつも爪先を冷たくくるむ。

つめたい、な。

でも、あたしは、これよりももっと冷たくなるんだ。

この家みたいに、値段があるんじゃない。

望まれず、生まれてきたあたしだ。

たった一円の価値もなく、生まれて、そして今から、死んでいく。


――でも、そんなあたしでも、最期くらいはワガママ言ってみたくてさ。


『見て、この紫陽花。綺麗でしょう?良ければ持っていってくれないかしら?』


たったそれだけと、他人は笑うかもしれないけれどさ。


『あ、ごめんなさい。お若い人は、花なんて押し付けられたらご迷惑よね』


他人にとって、たったそれだけと笑うことが、あたしにとっては、唯一の幸福だった。

真っ直ぐに、あたしに向けられたまあるい紫陽花。
そして、その紫陽花よりも綺麗でまあるい笑顔の、あの人。

私は一瞬であたたかな感情に吸い上げられた。


「い…え……あの………綺麗なの……好き…です」


あの時言えなかった、ありがとうの言葉を言いたくて。

一言だけでも、生きていた証を残したくて。

あたしはあの人に、最期だからと―――……





「ハアハア…お、奥さん…今何色のパンツはいてんのかなぁ…」


―――最期だからと……伝える勇気が振り絞れなくて、全く知らない人に、煩悩まみれのイタ電をかけてしまいましたとさ………!!

でも、そのイタズラ電話のお陰で、あたしの自殺は思いがけず延期される事となったのだけれど――……それはまた別のおはなし。


つづく

後書き

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