赤葦くんと幼馴染ちゃん
 梟谷学園の9月と10月は忙しい。
 夏休みが明けてすぐに球技大会があり、そして10月に2年生は修学旅行がある。その球技大会と修学旅行の間に、学園祭があるという極めて忙しない2ヶ月である。詰められたあらゆるイベントに、学級委員長やクラス役員は毎日打ち合わせをしては、疲れきった顔をしていた。

 我が校の学園祭では、1日目は芸術性と団結力を高め、一般開放する2日目は将来性とマーケティング力を高めようというコンセプトがある。同じく一般開放する3日目はミスターコンやミスコン、告白大会、昨年度の下半期から今年度の上半期にかけて優秀な成績を残した部活動の表彰、打ち上げ花火など、主に野外ステージを使うものが多く、2日目は校内、3日目は野外に分類されている。

 1日目の芸術性と団結力は、各クラスごとに展示、劇などの創作物を決めて学園祭までに完成させ、当日展示会或いは演劇をして競う。ダンスを披露するクラスだっている。
 2日目の将来性とマーケティング力とは、各クラスごとに野外や教室内で屋台やカフェなどのお店を開き、文字通りマーケティングをするというもの。こちらは実際に金銭が発生する。
 お祭りにあるような屋台をするクラスもあれば、教室内でメイド喫茶やコスプレ喫茶などをするクラスもある。昨年はお化け屋敷もあった。
 どこか堅苦しい印象があるが、実際は1日目に1位になったクラスには焼肉食べ放題券や学食1週間無料券などが賞品として与えられ、2日目は販売によって出た利益が自分たちの懐に入るため、誰しも気合が入っていた。

「名前のクラスは何するの?」
「私のクラスは1日目が劇で2日目はまだ決まってないの。ちなみに私は劇担当になると思う」
「あ、同じ。俺のクラスも1日目が劇なんだけど、俺は放課後あまり手伝えないだろうから照明か大道具あたりを希望するつもり」

 お互いになんとも曖昧な答えだけれど、4時間目を使ったたった1時間のロングホームルームで決まることなんて差程無い。これから時間を重ねて、3週間後の本番まで完成させて行くわけだ。
 1日目に展示会や劇などの催し物に参加した人は2日目の販売業務に携わってはいけない、なんて決まりは一切ないが、各々の負担を考えるとどのクラスも日にち毎に役割を分けるところが多い。
 昨年は1年生ということもあってほとんどが手探り状態であったから、クラス全員が両日どちらも貢献する所が多かったが、いざ先輩たちのやり方や効率の良さを目の当たりにすると来年こそはと皆が息巻く。こうして受け継がれていくんだと思う。
 2年になってクラスが変わって環境や人が変わっても、その受け継がれたものは無くならない。

 名前のクラス、2年5組も案の定分担されるようで名前は1日目の劇に貢献するらしい。恥ずかしがりやの彼女が劇を選ぶなんてちょっと意外。

「名前は? なんの役?」
「役はまだ決まって無いの。劇自体はシンデレラが候補に上がってるみたい。私もできれば裏方がいいなって思ってる」
「そっか」

 やはりと言うべきか、名前が希望しているものは裏方らしい。せっかく可愛い顔をしているんだから勿体ないなと思いつつも、名前が色んな男の目に留まるのは癪なのでそれ以上は特に何も言わなかった。

「2日目は? 決まった?」
「いや。2日目は男装女装喫茶だかコスプレ喫茶だかで割れていた気がする」
「すごいね……。じゃあ2日目は……」
「うん、空いてるよ」

 彼女の言わんとしていることが分かって、頭を撫でながら頷けば、ぱあっと花咲く愛らしい笑顔。まるで向日葵のように全身で喜びを伝えてくれるところが本当に好きで、可愛くて可愛くて仕方がなくて、堪らなくなって箸で掬った卵焼きを名前の口許へ運べば、小さな口がパクッと咥えた。餌付けみたいだ。うん、可愛い。
 咀嚼する名前を見守りつつ、次にくる言葉を待つ。

「私と一緒に学園祭まわってください」
「もちろん喜んで」
「京治大好き!」

 小学時代に行われたPTAによる夏祭りに誘って、中学時代の学校祭前にまた誘って、そうして10年間を共にしてきた。俺にとって学園祭は名前とまわるものという認識で、それはこの先変わることは無い。本当は1日目も一緒にいたいけれど、お互いに出し物がある以上中々それも難しい。それに名前も女子の友達との付き合いがあるだろうし。だからせめて2日目と3日目は俺のものにしたい。まぁ1日目も俺のものだけど。

「名前、3日目は?」
「3日目……一緒にいたいけど、京治と回りたい女の子はたくさんいると思うし……バレー部の先輩たちとの交流もあると思うし……」
「そんなの断るよ。バレー部の方も大丈夫。どうせ表彰の時に会うだろうし、学園祭まであの人たちのお守りはごめんだから」
「そ、そうなの……?」

 だから、なにも不安に思うことは無いよ。そう言って手を握ってあげれば、名前は幸せそうに笑ってくれた。

「じゃあ、私に京治の時間をください」
「もちろん」



幼馴染ちゃんとお誘い。

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