(突発)短編 | ナノ


『だっていつも探してますから』


「ぎゃあ!」


ブンッぐきっどさり。悲鳴。
そんな漫画みたいなテンポの良さに女の子らしさなんてかなぐり捨てたようなオチで笑いという名の花を添えながら私は見事にコケた。いやむしろ転がった。目の前にはキラリというかギラリと輝く切っ先があって雪女とか関係なくヒヤリとした。…うわ、私何てコケ方してついでにどんな手放し方したの。こえーよ。
だってこれ、この世界では銃刀法違反になんかならんから皆割と普通に持ってるし勿論料理に使うのと違って明らかにデカいし。そりゃかの輝かしい武将達が使うのと比べると明らかにショボイとは思うものの何をどう言い繕っても本物なんだもん。

さてさて、なんか私いつも『気づけば異世界。』みたいになってるけど、今回ははてさてどこに飛ばされたのやらと周りをなめ回すように見てたらどこ、というかどこまで飛ばされたのなんて世界だった訳で。
二回目人生とかリアル無双の日々だったけど、ほんとのホントにリアルになってしまったのが今回の無双の世界因みに三國。

…しかも、晋。

流されるように…ていうか大量に画面で見てたモブとかザコに実際に流されたんだけど、飛ばされた場所が晋にとっての敵のド真ん中で、いきなり見知らぬ人間(じゃないけどさ)が降ってきたんだもん周りが警戒しない筈がなくて。しかも時代が時代だし何よりまさかの戦闘前の行軍だったからウオオオ!なんて感じに斬りかかってきて。本気で身の危険を感じた私は目撃者とか言ってられなくて人外スキルで片っ端からちぎっては投げちぎっては投げを繰り返してたらなんか晋に味方じゃね?って勘違いされて。あとから知った訳だがここは無双なため比較的アホみたいな動きやビームみたいなん出てても「仇なさないなら強いやつ。歓迎。」てな感じらしく、そんな訳で今や私も晋の一ザコ兵。

何で自分じゃ強いなんてとてもじゃないけど思えない私?って思ったけど、女にしては…とは、まあ、見えたんだろう。一応人生というか戦闘経験はない事もないし(ピー年)無双とはいえ男性に比べたらまだまだ女武将は少ない事だろうし。…てゆか、ぶっちゃけ女の子なんて無双武将かそれの近衛兵くらいしかいないし。


「…ぐすん。足捻った…」


人外はそのままに来たとはいえだらけていたらフツーに鈍る。
だから今日も今日とてザコはまだしも無双武将はみんな、果てはモブすら人外だから派手にドンパチやってもあんま誰も気にしないかもしれないんだけど、それでもあまり人間離れした動きを見られても困るので一人こっそりこうしてテキトーな森に出てきて剣をブンブン振って修業していたら、何をミスったか見事に下生えに足を取られあろう事かコケたどころか足首をやられたという。

いかんせん剣、というか武器は不得手でして。だって私の武器基本手足だし。
…その武器がたった今死んだワケですが。

しかし痛いな。一瞬とはいえ何か足首がふくらはぎの内側にくっつくくらい曲がったから靭帯プッツンの可能性がある。


「ここから家までそうある訳でもないけど…歩けっかな。…ムリじゃね?」

「ああ、無理だろうな」


あれおかしいな、私今一人な筈なのに返答が。


「珍しいな。お前が鍛練中に怪我をするなど」

「かっ…!」


…治癒術か?それしかないだろうな幸い今一人だしいくら無双世界とはいえ体力回復系を扱える武将は滅多にいないからホントは気は進まないんだけど誰もいないんだから関係ないわな。
…なんて、考えるか考えない内に一体いつからいたのか。

晋の武将、賈充が私を見下ろしていた。わおカッコイイ。
…じゃなくて。


「…おはようございます、賈充様」

「もう昼だが」

「…」


仮にも相手は司馬昭の腹心、私はただの一兵卒。居住まいを正してまずは挨拶だ!…いきなり外したけど。
…しかも治癒術を使う前だったから当然立てないし部位が部位で足首を限界まで伸ばさなきゃ出来ない正座も論外だから足を投げ出した状態だけど。大目に見てくれ、頼むから。

…それにしても今言った通り恥ずかしいとこ見られちゃったな。美形に見られただけでダメージが増える気がしてくるんだから不思議だわ。あ、勿論ケガへのダメージじゃなくて心のです。

しかし言うまでもないが私は極力主要人物、もとい無双武将とは距離を置いている。それこそその場に誰かしらがいた場合お互いの視界に入らないくらい避けまくる。

…な、の、に!何故にこやつは現れた。解せぬ。

そして理由は近づける地位にいるいないではなく今までの経験からして巻き込まれる事必至だから。特に無双なんて何がゲームオーバーに繋がるかわからない。ゲームなだけに。

そしてその中、つまり晋の中でも私は賈充が苦手だった。
そりゃイケメンは大好きだしクールキャラとかツリ目とかはたまたツンデレだとか元の世界にいた時は好みだったし最高って思ってたけどそれらは所詮二次元での話であって実際に対面するなら話は別だ。だってそうでしょ?たぶん泣かされるだけだし。私それで笑っていられる程Mじゃないよ。ただのチキンだよ!

…話が逸れたが、ここまで言えば何となくわかって頂けただろうか。
私は単純に怖いのである。賈充が。


「いやー、しかし恥ずかしいとこ見られちゃいましたねアハハハ…あ、もしかして私に何かご用事ですか?」

「…」


だから極力刺激しないように出来るだけ低姿勢で訊いてみたんだけど、なんか微妙に顔をしかめられた。気がする。…無表情わかりにくいんだよ!
ええい何だ何だ私が何をした!


「…前にも言っただろう。どうせここには俺達しかいない。敬語は要らない。何だったら様も、だ」

「…」


…訂正する。この男、一度同じ戦場もといフィールドに立った際何を見たのか私に声をかけてきた事があり、その際私の普段と180度違うカチンコチンの態度が気に入らなかったのか人目を気にするというのなら今みたいに二人の時でも良いから敬語を外せと宣ったのだ。しかも呼び捨てまでも可とか。あと字でも良いそうですどゆ事。
なんかめちゃくちゃ鋭そうだしきっと看破したからこそあまりにも私の頭に被さる猫の多さが気に食わなかったんでしょうけどお願い地位をわかってェー!
あなた侍だとしたら私ぽっと出の農民もいいとこですから!


「…それより賈充さ…賈充様、はどうしてこちらに?」


…ま、負けぬ!負けんぞ私は!
無言の圧力いと怖しだけどもうこの話題は終了とばかりに強引に話を逸らす。

無表情に違わず聞こえるか聞こえないかという小ささで賈充は嘆息した。諦めてくれたらしい。
しかしいつか突っ込まれるだろうなという話題に触れられそれはそれで退路が断たれた気分だった。


「たまたま通りかかっただけだ。…そんな事より、良いのか?足は」


早くあなた様が消えてくれれば治癒術でも何でも使うので大丈夫です。
…とは言えんわな。失礼すぎる。一応声をかけてくれた人に対しそんな言い方ないだろうって話だ。

しかしずっといられても困るっちゃ困る訳でな。
だってこのシチュエーション、彼に直接助けを求めるか誰か呼んできてもらうしかないって手札しか残ってないって話だもんね。
賈充の場合肩を支えてくれるとか想像出来ないから後者が無難だろうか。

言ってないけど痛みは話してる内に少し落ち着いたとはいえまだまだ激痛の余韻は残ったまま。普通だったら逆に痛すぎて声すら出ないかもしれない、これ生前の私だったらわんわん泣くような歳とか関係なく涙の一つも零れてると思う。
今の私は割とデフォルトな17、8歳だけど。来たらなんかこの年齢だったんで。


「実はちょっと…ですから賈充様。本当に申し訳ないのですが、何方か――」


呼んできて頂けないでしょうか。
懇願はまさかの自身の反論で打ち消された。


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