(突発)短編 | ナノ


『オタクだが鬼滅を知らない主が並行世界の自分の大罪の責任を取らされている。』


気づけば見知らぬ空間にいた。
どこを見ても黒しかない。光源の一つもない完璧な闇。

…おかしい。今日も今日とて社畜は夜11時を過ぎてからようやく玄関の扉を開いた。そしていつも通り手探りで玄関の電気を点け、居間へと重い体を引きずるようにして入ったはず、


「へ……?」

「お、来たか。社蓄はつれぇな、まあオレには関係ねぇけど」

「っ、うわあああ!?」


買ってから速攻でくたびれた鞄を色気のない悲鳴と共に声のする方へ放り投げそうになってしまった。私はこれでも一人暮らしなのだ。しかも妙齢の、一応女でもある。


「――え」


けれど不可解な事に、私は馬鹿みたいに直立不動のままだった。…という事は、目の前にいるらしい人の前で無防備に構えてるという事?それはまずい。
私は生まれてこの方一般人代表だ。漫画とかゲームにいたりする人外の様に夜目が利くなんてミラクルは残念ながら無いのである。そのため声しかわからなかったものの、どうやらどこかのヤク…あんちゃん、なんて言葉がぴったりな感じの青年のようだった。

そして、何やら関わり合いはご遠慮したいタイプのような。


「うるせェよ。このままこの空間に放置したって別に構わねーんだぜ、オレは」

「心読まないで下さ……読めるんですか!?」


読心術ってほんとにあるんですか!?!?


「まあメンドクセー事にはなるが、どーしてもってんなら他のやつが対処すりゃいいだけの事だしな。つまりオレは困らない」

「あ、無視ですか。…じゃなくて、すみませんごめんなさい!あのそれで……ここって一体何なんですかね?確か私、自分の家に入ったはずなんですけれども」

「オレの領域ってやつだな」


…つまり、彼は能力使用者だとかそういう事?
漫画やアニメの見すぎって?…確かにそうなんだけど、現に私は先程から突っ立ったまま指一本動かせないのだ。
という事は、ここは彼に逆らったら終わる系のやつなのでは。

ここでは彼は神に等しい的な。


「ほォ。わかってんじゃねェか」

「正直に言えばわかりたくなかった!」

「でだ、まどろっこしい事は置いといて……お前相変わらずバカそぉーな顔してるからざっくりまとめちまうけど、オレ、人外。もう一人のお前の同僚な。ちな吸血鬼ってやつだな。外国語だと何て言うか知ってる?ヴァンパイアな」

「いくら何でもそれくらいは存じてますが!?」


ガッと言う。しかしそこで何か不機嫌そうな雰囲気を感じてまたも私は平謝りしてしまった。会って間もない相手に既にキツツキだ。威厳形無し。見知らぬ人にいきなりダメ出しされてるというのに。いやでも何か怖くて…。

こ、これがいわゆる殺気とかいうやつなのだろうか。まさか現実で体感する日が来るとは思わなかったけれども。…いや、そもそもここは現実なのだろうか?殺気ってあれ漫画とか創作の世界の話だけじゃなかったの…。
因みに私はオタクです(?)

……というか、相変わらずとかもう一人の私とか聞こえた気が、


「そうして怒るとほんとそっくりだな…まあ同じ存在だから当たり前なんだが。違うのは目が紅くないのと、耳が尖ってない事くらいか。清々しいくらい人間してんなァ?こうして見ると」

「え…いやあの、私は生まれてこの方人間ですが…それに私と同じ存在というのも一体。あ、ていうかあなたには私が見えるんですか?」

「さっきもそんな感じの事言ってたな。よっ、凡人。因みにオレは凡人じゃないからお前の事はよく見えます。何とも間抜けそうな顔だ」

「クンヌゥゥ…!」


だから心を読まないで頂きたいと…!


「オレはそういう血鬼術の持ち主なんだよ諦めろ。ま、オレらは西洋鬼だから正確には違う呼び方をするんだが、こう言わねぇと東じゃ通じねぇからな」

「、け…」

「ああ、今はそれについては置いておくからな。話ややこしくなるし。つーかイヤでもその内わかるし。で、同じ存在云たらだが、簡単に言ってしまえばただのミスだな。他世界に元々いた本来のお前の魂が分離した際トチって、そしてそのお前がハーフだったがばっかりにいらんとこ…ここでは人間の部分だな、そこだけ集まっちまったのがここにいるお前ってコトだ。可哀想にな」

「なんか憐れまれてる…。ええとつまり…何でしたっけ、パラレルワールド…?」

「お、知ってたか。あとは並行世界とか言ったりもするな。まあ簡単に言えば、『もしも』の世界だな。○○の選択をしなかった自分の分だけ世界があるそして、他の自分はその分岐した選択しなかった世界の経験をする事はけっして無い……ってな。なんたって並行、同時に存在するんだから交わるわけがねぇよな。
――そこで、だ。死の間際にあったお前が末期の力で使った一世一代の血鬼術が、お前自身を異世界に分岐させて逃がすっつーの?違う世界でもいいから生き残らせる事だったんだろうな。で、お前がその中の最後の一人、イコール唯一の生き残りってわけだ」

「なるほ……って、最後?他の私はどうしちゃったんですかね?」

「残念ながら全滅だなハハッ。どんまい」

「…」


全く気持ちがこもってないんですけど!知ってた。たったの数分だけど。見知り合い歴。


「ってー…私はともかく他の私?とやらは、その話を信じるなら吸血鬼だったんですよね。それらがみすみすやられちゃったんですか?それも全部??」

「お前弱かったからな〜。まァ吸血鬼は純血に近ければ近い程強いもんだからなあ、強く生まれるっつーいわゆる雑種と違ってよ。つっても人外な事には変わりないし、弱点も今時の吸血鬼ったら日光か銀の武器しかないのにな。はっはっはっは」

「ざ、残酷すぎる…!」

「ま、そんなわけでお前がやらかしたのの尻拭い出来るやつ、つーかやるべき人間が本人であるお前しか残ってねーんだわ。…けど意外だな。もっと『吸血鬼とかありえない!』とか言うかと思ってたが――もしかして心当たりあるんじゃねェか?」

「……」


――先程一般人と言ったけれど、本当はそこにもう少しだけ付け加える事がある。

勉強は平均的。
だけど、運動神経は良い時と悪い時の差が歴然だった。

良い時なんて学年一位を取ってしまうくらい。
悪い時は体育が外というだけで引っくり返っちゃうくらい。

けれど、調子の悪い時の条件なんて考えた事も――いや、正確に言えば考えてもわからなかった。

でも、今思えば調子の悪い時、外は、いわゆる“いい天気”ではなかったか。


「その顔だと当たりみてェだな。いっくら人間の血が大半っつってもお前がお前である以上多少は吸血鬼の名残があるはずだからな。晴れの日とか調子が悪かった事はねェか?まあ今の心の声で答えは出たようなモンだろうがな」


どうでもいいが(良くない)、結局私は何をすればここから戻れるんだろうか。
あしたも早いのに。


「今すぐ罰で死ぬのと後始末を終えた上で元の生活に戻れるのとどっちがいい?」

「……任務成功のためにもお訊きしたいんですが、他世界の私がしでかしたという罪になる程の事とは具体的に言いますと…?」

「お前がヘマしてやられてくれちゃったおかげで怒り狂ったやつのせいでその世界の未来が狂った事かな!くさっても吸血鬼は人間を惑わせるからなァ。まあ最悪、コッチはお前もそうしようと思ったわけじゃなし、つまりは過失と言えなくもないから世界の成り行きに任せてもいいんだが」

「エッ待ってコレもしかして、一つじゃな――」

「事件その2ぃ〜。件の世界から見た他世界ならもしかして、と考えたのか知らないが、分岐する際、近くにいた人間を引き連れていきやがってな。瀕死だったんだよその人間。可哀想だよなあ、まさか助からないにしても自分の世界で死なせてすらもらえないとは。これじゃ骨も拾ってもらえない」

「最悪×2!」

「じゃ、そゆ事だから。とりあえず、今言える事は遺体でもまさかの治療後でも何でもいいから、まずはそいつを元の世界に戻してやれよって事だ。こっちは完全にもう一人のお前が蒔いた種なんだからな」

「今更言っても遅いかもですけど、それって私が責任取るのは筋違いなのでは…」

「今すぐ罰で死ぬのと…」

「わーい名前今すぐお兄さんのお話の続き聞きたいな!」

「話戻していいか?――流石に元の世界で死ぬ事すら出来ねえってのは寝覚めがわりぃからな。因みにお前がいいと思ったタイミングでかつてお前その1が死んだ“その世界”に飛ばされるようにしといたからそのつもりで。オレの血鬼術マジ万能〜。あ、言い忘れてたが、そこもお前の術の一環だっただろう、同期?全お前以外のお前が死んだ事によって他のお前の要素全てがお前に流れ込むからまあ頑張れ。ま、記憶は能力とかじゃねーから無理だけど。

じゃーな、同胞・名前。他の詳しい事はまた追々。」


彼が言い終わると同時に、視界はあけ先程までの硬直が嘘のように氷解したものの、奥でドサリという音がした。


***


確かに去り際にようやく確認できた彼の耳は尖っていたし、瞳も赤かった。まるで血のように。ついでにいえば肌も病的に白かった。これぞ吸血鬼!みたいな?
まあ私は普通に黄色いですがな。ガハハハ。

じゃなくて。


「今の、私の部屋からしなかった…?」


物音もだし、香りも――香り?人間の嗅覚とはそんなにも鋭いものだっただろうか。
部屋への扉は当たり前だが家を出る時に閉めてきている。


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