(突発)短編 | ナノ


『もしもイーブイさんがツイステに飛ばされたら。』


なんかあんましぬるくない。
むしろ寒い。

記憶がいつの間にか途切れてる事から察するに、恐らくの生まれ変わりなら羊水にでも浸かっていそうなモノなのに、ここは酷く冷たかった。

しかも薄暗い。けれど何も見えない程に暗くはない。
という事は、やはりここは母胎ではない。


「うっ……ぐす、」


そして聞こえた涙に潤む声。幼いそれは振動を産み、やがてこちらにまで届くさざなみとなる。

私はあまりに冷たい――そう、いつの間にか水に囲まれていたのだ。

そして目の前にはなんて事な……くはない、どう見てもヒトじゃなさそうな、小さな小さな子供。その後ろ姿。
髪が日本じゃおよそ見られないような見事な銀色をしている。

かつて近所にいたポケットモンスター――通称ポケモンと呼ばれる生き物というわけでもなさそうで、けれども肌の色が肌色ではなく、そう、下半身が人ではなかった――足がない。
いやまあ、この子にとっては足なんだろうけども。


「(多分……に、んぎょ)」


ヒトの作った物語にしかいないと思われた架空の存在が、今目の前にいた。

私はポケモンというそんな不思議な不思議な生き物がたくさんいた世界の出ゆえに(ついでに自分もその内の一端を担っていたわけであるからして)、色んなカタチの生き物には見慣れているはずなのだけれども、上がヒトで下がまるで水ポケモンをくっつけたような生き物を見るのは流石に初めてだった。

というか、人魚って実際にいたのか。とりあえず、これではっきり実はの二度目のトリップを現在進行形でかましてるらしい事が判明した。普通人間の世界に人間以外の人間っぽい生き物なんていないと聞くし。因みにポケモンの世界は言わずもがな。人外といえばむしろポケモンしかいない、それがポケモン界の常識である。


「(ひいふうみい…わ、足が8本ある!)」


どうやら下がお魚でないタイプの人魚らしい。という事はたこの人魚ちゃん?くん?て事になるのだろう。というかたこの人魚っていたんだね。いや人間世界でいうでぃす?じゃなくただの頭上に浮かぶ「!」みたいな。前にゲームで見たよ。
そういえば人間の友達がかつて観せてくれたアニメにいたよーな…いわゆる敵だったけど。人間界はチョサク県?とやらがうるさいそうなので何の作品とは言わないでおくけど。
食いしん坊さんなのか丸々としていて丸めて転がしたらころころ転がっていきそうで可愛い。

とりあえず突然の水没に驚きはしたものの、焦る事はなく私は私の身体を作り替えた。
焦ったらそれこそ死んでしまう。

茶色い髪は濃い水色に。
出来ないはずの呼吸はまるで地上と同じように。

イーブイがシャワーズになった――イコール、進化した瞬間だった。

シンプルにいえばノーマルタイプから水タイプになったという事。これがどういう意味を持つのかといえばつまりは死なない。イーブイ死なない。
意思だけで進化出来る身体で今だけは本当に助かったと思う。本来ポケモンとはレベルだとか、条件だとか、はたまた特別なアイテムがないと進化出来ない生き物なのだ。因みにポケモンは進化すると大きくなったり強くなるというのが一般的である。

と、ここいらでそろそろはっきりさせなければならないのだが、私は一般に死ににくいとされるいわゆるポケモンであり種族はイーブイ、そしてこれが何より大事で擬人化アリなのである。しかもこうして進化したりはたまた戻ったり(!?)がお手のもの。

そんなポケモンの例に漏れず、死んだ記憶はないし、何ならポケモンだからかやたら長生きした記憶すらある。あるのだけれど、どこで道を間違えてここに至ったのかがよくわからない。
人の世界でいう和風の記憶。そこで過ごした一般に長すぎる記憶があるというのに、それは現代日本と呼ばれる時代を最後に途切れていた。

――とはいえ、実は一度人間界、それも星レベルで違う世界に飛ばされた事があるから今回もそれなんだろうなというのは何となくわかったのだけれども。

その記念(出来ない)的な初トリップの一応一生分の記憶はそうしてあるから、それなら飛ばされる前に戻ったという事ではないのだろう。何より私は先程まで室内にいた。前述の通り和室だった気すらする。
ただ、そんな人間世界の一般常識は忘れなかっただけで誰といただとかは思い出せなかったから、その一度目のトリップでの知り合いは今この瞬間ゼロになってしまったという事になる。

新たな世界に来た以上対人関係は今悩む事ではないため置いとくとして、しかし飛ばされるにしても屋外どころかどこかの水の中とか。それもうっかり開けてしまった口に入った溶かしすぎた塩のような味からして、同じ水でもここは海の中という事らしい。
私が水タイプではない、もしくは進化したところで水タイプがつかないポケモンだったらどうしていたのだろうか。この世界に送り込んだ神とか運らへん。
シャワーズになれなかったらその大事件は私の元々大して吸っていなかった口内の酸素を奪いきっていた事だろう。

――ところで髪なのそこは毛じゃなくて、って?
ああそういえば、前の――ポケモンの世界ではなかったからこその――世界の名残か、先程の私は息をするように擬人化したままだったようだ。そして髪はやたら長い。私の趣味だったのだろうか。
……思い出せない。

髪は視界に入る程だったから長さはわかったけれども、容姿は今は確認が取れない。どうでもいい事だけど、確かに人魚といえば髪は長そうなもんだけどこちとらただのシャワーズなんですが。
それはさておき、このタイプなら水と名の付く通りここ水中でも息をする事が出来るのだ。ただしシャワーズとは水タイプの中でも身体が極めて水に近いため、まるで水に溶けたように姿が見えなくなってしまうのが欠点だったりする。敵に見つかりにくいのは長所なんだけれども。

だから、こんな時はちょっと不便だったりする。


「ねえ君、大丈夫?」

「っ!だ、誰……あれ、いない……?」


ほらね。
泣いていたらしいその子に声をかけても子供は辺りをキョロキョロ見回すだけで私と目が合う事はなかった。こんなところにいて人語を解すという事はつまり、この子はやっぱり人魚という事になるのだろうけれども、そんな神秘的な存在にさえ視認されない事が判明した。あんまうれしくない。これじゃ慰めにくいじゃないか。

おかげで私の声のした辺りつまりは私の方を不安げな目で見ている。
驚いたおかげか涙は引っ込んだみたいだけど。


「ごめんねえ、いきなり話しかけたばかりか姿まで見えないなんてびっくりするよね。私、名前っていうの。ポケモンの、種族はイーブイ。君は?」

「……あ、アズール。アズール・アーシェングロット……」


するりと出たからその名前はきっと前の世界で貰ったもの。誰からのものかは思い出せなかったけど、はじめはイーブイのままだった事はわかったから、そこ、前の世で貰ったもの。
苗字とやらは思い出せなかった。

それにしてもカッコイイ名前だね君。苗字とかやばくない?(何が?)
何てーの?こういうのガイジンさんみたいっていうんだよね。ニホンジンからすると。


「アズールくんね。…くんで合ってる?間違ってたらごめんなんだけど」

「うん……僕、雄だよ……あと、アズールでいいよ……」

「あ、良かったぁ合ってて。あ、私も名前でいいよ〜」

「う、うん」


ポケモンな私は今でもたまに人間の性別を見間違う事がありますゆえ。人がポケモンの性別を見分けにくいのと同じだろう。
ましてこの子は丸々としてはいるものの中々愛らしい顔をしているのだ。それは今まで培ってきた人間基準故に何となくわかる。


「あの、名前は雌……?」

「うん?そうだよ」


長らく人と交わってたからオスメスの言い方が久しぶりな気がするけど、本来ポケモンの呼び方はこの言い方なので何だか懐かしかった。魚だからオスメスなんだろうなぁ。


「じゃ、アズールくん改めアズール。これも何かの縁って事でよろしく!」

「、え……」


あんまり考えずにそう言うとアズールは何故か驚いたように目を見開いた。思わず私も「えっ」と復唱してしまう。


「あれ、駄目だった?」


これでも人間に交わって生きてきた歴(まんま)それなりにあるはずなのにやべー解答間違った?
そこではたと思い出す。そういえばここは人魚の世界のようだし、ヒトとはちょっと常識が違うのかもしれない。…それってヤバくない?まさかの不敬とかだったりする?


「う、ううん。駄目じゃない、けど、……」

「そう?なら良かった」


トリップ後早々にヘマするとかちょっと恥ずかしいしね!


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