(突発)短編 | ナノ


『もしもイーブイさんがツイステに飛ばされたら。』


擬人化していてもしていなくても相手に見えない事に変わりはない。トリップしたと思ったら失敗だけならまだしも即ドザえもんとか笑えないので、私は特に他の姿を取る事もなくそのまま話し続ける事にした。シャワーズ以外になろうものなら即溺れる事間違いなしなので。

と、ここいらでお気づきの方もいるかもしれないが、私はイーブイはイーブイでも進化自在と先程言ったように、なりたい時にどの進化形でも取れたりするのである。別に原型に戻ったりする必要もないし人型からいきなり別の進化形の原型になれたりもする。出来そう。勿論最初のポケモンの世界では無理だったからかつての初トリップの時に得た能力だけど。何でそんな事になってるかは、対人関係がすっぽ抜けてるせいで曖昧だけど。

でもこうして一般常識は覚えてたんだからいいや。仕組みはわからずとも身体が覚えてくれてるおかげでエラ呼吸出来てて人魚さんとのお話にも困らないし。何なら擬人化も出来るおかげでこうして意思疏通にも困らない。


「ね、アズール。私はここ、この辺りにいるよ」


透明人間ならぬ透明ポケモンだが見えないだけで物体としてそこにいないわけじゃない。触れられれば相手は感じ取る事が出来るし、技が当たればこちらも痛い。
それはともかく、何とか気づいてもらおうと一応ここにいるんだよアピールとして沢山息をブクブクはいたり足元の砂をバサバサとはたいてみたりする。すると何となく位置がわかったらしい。うろうろしていたアズールの目が私のいる方に定まってきた。


「あ……もしかして、そこのヒトデの辺りにいる……?」

「ん?ヒトデ?あっ、これか。そうそう」


よく見ると私の足許にはヒトデが落っこちているではないか。ヒトデマンを大分小さくしたような可愛いやつ。
君ちょうどいいところに、なんて言いながら拾い上げてアズールの方へつき出すように見せるとようよう私の存在を信じてくれたらしい。ヒトデがひとりでに宙に浮いたように見えただろうから。あ、ここ水の中なんだから正確には水中に漂ったが正解か?
息を呑んだアズールと私の目がほとんどと言っていいほど合った気がした。


「そういえば、アズールの目って青いんだね。髪も綺麗な銀色だし……人魚さんってみんなそうなの?」


髪はまだしも何でビー玉レベルでしかないそんなとこまで見える?水タイプだからです。神秘です。


「ええっ!?そ、そんな事初めて言われたよ……あと、人魚って言ってもその人によりけりだよ……」

「そっかぁ、それはポケモンや人とおんなじなんだね」

「……?名前は人を見た事があるの……?僕、その、陸にはまだ行った事がなくて……」

「そうなの?うん、私は元々地上に住んでたからね」

「そ、そうなんだ……こんな海底にいるから名前も人魚とか、海の生物かと思ってたよ……。あ、でもさっきぽけ……ぶい……?ええと、そういう生き物なんだっけ……」

「そうそう。私は人魚なんてそんな大それたのじゃなくて、ただのイーブイ。ポケモン、正式名称はポケットモンスターっていうんだけど、それのイーブイって種族。うーん…そうだなあ、海で例えるなら魚の何々って種類、みたいな」

「な、なるほど……」


ここ海っぽいし相手も人魚だしと思って頑張って即席例えを用いると意外と早くわかってもらえたらしい。
ここでは貝殻が地上でいうところのノートなのか、アズールは小さなそれに律儀にメモしていた。

そしてポケモンに過剰反応なし。けれどポケモンは知らない。そんなところを見るに、やはりここは私にとって異世界らしかった。まあ人魚さんがいた時点で今更なのだが。

その時、ただでさえ薄暗いこの世界にいくつかの影が走った。アズールと私の顔にもかかったそれを二人して見上げると、そこにはアズールと同い年くらいの人魚の子が数人いた。人魚さんに対してニンって数え方が合っているのかはわからないけれど。

足はたこじゃなかった。


「やーいグズでノロマな墨吐き坊主!寂しすぎてついに友達の幻覚まで見えるようになったか、キャハハハ!」


…う、うあー。これはあれだ、いじめっこの気配。どこからかはわからないが今までのやりとりを見ていたらしい。せっかく泣き止んでいたアズールの目が再び潤んだ。私の言うべき内容が決まった。


「こらっそういう事言わないの!大体幻覚じゃないよ、私見えないだけでちゃんとここにいるんだから」

「えー何、一応なにか居るわけ?姿は見えないのに声がするんだけど」

「え〜どこぉ?」

「ふーん。ま、よくわかんないけどいいや、」


いや、何がいいのか。
何かいやな予感が――などと思う間もなく、それは轟いた。


「アズールまとめてやっちゃえばおんなじ事だろ!」


瞬間ゴウッと飛んできた勢いのある水流、私の世界で例えるなら『みずでっぽう』より数段威力のありそうなもの。え、まさかの技?…じゃあないよね、ポケモンじゃあるまいし。ならここ、え、魔法とかあるんですか?マ??(…ってこういう時言うんだっけ!?ねえええ!)。アズールに訊いてる暇なんて勿論なく、咄嗟に私も思いきり手を振る事で水を出す――こちらは真実水タイプの技である。名称ハイドロポンプ。水中でも出せ、且つ対抗出来そうなもの。何より、シャワーズで咄嗟に出せる高威力の技といったらこの辺りしかないのだ。

野生且つポケモンの世界を離れてしまっていた私に技マシンなんて人にしか作れない便利道具、使われる機会なかったから。技マシンとは強くなる事で覚えられる本来の技以外のそれらを覚えられる、いわば優れものである。
それでも隣のアズールは驚いたような顔をしていたけれど。


「うわっ」


そして年月の差故か単純に水タイプの中でも上から数えた方が早い威力故か、相殺通り越して打ち勝てたらしいこちらの水砲が、けしかけてきた人魚1の顔の横すれすれを勢いよく通り抜けていった。この技は威力こそあるがそれと引き換えに制御しづらいとでもいうのか、命中率は微妙なのだ。
激突された背後の大岩から轟音が鳴り響く。因みに原型なら技といえばもっぱら口からはいている。まあ、何にしてもどんな仕草で出しているのかは彼らには見えないのだが。今も見えていたのは技である太い水のみ。
風穴こそ開けられなかったもののピシリという音がした。

…私も成長したもんだなあ。しかしだからこそ今ここに私がいるとゆか、死なずには済んできてるんだろうけど。まあ現在進行形で殺されそうになってるけど。…仮にくらったとしても死なないよね?大ゲサ?
とりあえず思った。人魚って怖い!

それにしても嗚呼…私ってば他の子と違って戦闘だとか切磋琢磨よりきのみ集めが好きな怠惰ポケモンだったはずなんだけどな…。どこで道を踏み外してしまったんだろうか。


「チッ。姿は見えないけど魔法士だぞ、そこにいるやつ!」


今ので諦めてくれればいいのに次から次へと攻撃が飛んできた。私も前にいたところで見た事のあるアニメやゲームとかいうのにまんま出てきそうなそれら。“魔法”。その世界ではポケモンがいなかったから、そこの人達が見たらさぞや驚くのだろう。つまりポケモン世界から来た私はまあそれなりにこういう光景には見慣れているわけで、普段は何とも頼りない私の頭脳ではあるがこうして少しは冷静に考える事が出来ている。

タイプに左右されるポケモンである私と違い、人魚だからといって水や氷タイプの魔法だけではないらしく、中には草タイプのような鋭い葉のような攻撃もあった。草に強い炎タイプのブースターならば全て無効化出来るかもしれないのにと遙か頭上にあるのであろう地上を恋しく思う。
…あるいは氷タイプのグレイシアなら使えたミラーコートが使えればダメージは受けるものの面白い事になるんだけどな。※跳ね返る

まとめてとは言いつつもそもそも姿の見えない私よりアズールが標的にされるのは自明の理だった。アズールに向かってくる魔法全てを打ち落とすくらいの気持ちで、というか実際アズールに当たる前に処理しつつ、本来戦いは好きじゃない上に生来めんどくさがりでもある私はここいらでおいとましようかと思い始めていた。ほんのちょろっと注意はしたけど私の姿が見えないのもあってかこの子達聞きそうにないし。
それどころかいきなり攻撃とか。いじめか。いやいじめに来たんだろうけどな。全く、女の子に攻撃とか以ての外なんだかんな!まあ相手には見えてないんだけどな!!(しかも性別あんま関係ないポケモンである…)。

私の世界の人間はナントカだん(いわゆる悪い人達だ)とかでもない限りポケモンに基本優しいし私も割と好きだったが、ちょっと人魚が嫌いになった瞬間だった。
…あ、たこの人魚は別ですよ。

さてここから逃げるには一瞬でもとあるタイプになる必要がある。いわゆるエスパーや超能力者、私のとこで言うならエスパータイプ。つまりはエーフィ。テレポート、つまり瞬間移動を扱えそうなのは今のところそれくらいである。

…と言いたいところだが、残念ながらエーフィとはテレポートを覚えられないエスパータイプなのである。ポケモンは基本的には自分と同じタイプの技を覚えていくものだが、タイプというより種族的なモノに因るものなのか自分のタイプでも普通に覚えられない技も多いのだ。ただ、全てイケてしまったらオタクさんがよく口走ってるチートとやらと同じである。
だから、

私が、私達が逃げられないなら相手をどこかへやっちゃえばいいわけで。

「シャワーズの時点でたくさん吸っとかんと!」目一杯肺を膨らませた私は、


「いじめっこはぼっしゅーと!」


ねんりき?サイコキネシス?どっちでもいいけど、それを攻撃に使うんでなくその力で彼らを操って私の力が届かなくなるその場所まで、それこそ3人まとめてギューンと吹き飛ばしたのである。まるで見えない引力に引き寄せられるかのようだ。まあ姿が見えなかったのは私だが。
これで彼らが余程のおばかさんでもない限りすぐには戻ってこないだろう。だってまた来たって同じ手をくらうだけだもんね。
「くそっ…覚えてろよお母様に言いつけて――!」なんてここは海だが木霊が聞こえた気がしたね。因みに私の記憶力はイマイチである。

視界で再び揺れた髪は淡い紫色をしていた。


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