(突発)短編 | ナノ


『もしもイーブイさんが学アリに飛ばされたら。2』


この学園前に捨てられていた、というのは偶然ではないんだろう。
対処に困ったか少しでもこの子の行く末を案じてか。言うまでもなく後者であってほしいけど、この子を見るに前者が濃厚かもしれないとそうは思いたくなくてもピンと来てしまったのは事実だった。

ポケモンは私からすれば勿論普通。だけれども、妖にまで囲まれた生活を送ってきて多少の耐性はあった筈の私ですら何が起こってるのかわからなくて、怯んだから。
ごめん、仮にも赤ちゃんだってのに。

でも、だからって。見慣れないからって、気持ち悪いとは、死んでも言わないけれど。
…だってそれじゃあ、あの人と一緒だもんね。


「…ぐっ」


抱き上げてすぐにわかったのだ。取り落としそうになったのを慌てて耐える。耐えられた。前世のおばあちゃんの血に感謝した。
でなきゃきっと耐えられなかった。


「…これも“そう”、なんだよね…」


この子の置かれていた地面。よくわからないが、これもアリスの一種なんだろう。アリスというモノについて私の知っている事は少ないけれど、両親の会話で聞きかじってはいる。
『アリスには本当に様々な種類がある』と。
いわば特殊能力でそれこそ何でもアリの代物だと。

私からしてみるとまるで人がポケモンの技を使えちゃうみたいに見えあいやまだ見てはいないんだけども、そんな風に聞こえた。いわゆる第一印象ってやつだ。おかげで初めて聞いた時は見た目赤ん坊なのに「マァジかよ!?」と目ん玉が飛び出たものだ。
例えば人なのに私達みたいに火とか水とか出せたりするんだって。こんな事言ってる場合じゃないんだけどもでもやばいよね面白そうだよね。いつか私にも見せてくれないだろうか。あ、バトルより木の実バイキング派なので(つまりぐうたら)力比べとかはナシの方向でお願いしま……だからんな事やってる場合じゃないて。


「腐蝕、とかなのかな…」


…きっとこれは多分、触れたモノや周囲を恐らく――腐らせてしまう、アリス。

抱き上げてもむずがるでもない事から一応それなりに深く眠ってはいた訳だけれども、あんまりすやすやって感じではなかった。何となく眉間に皺が寄ってるというか、苦しそうなのだ。恐らくこのアリスが原因なんだろう。

露となった地面は固いコンクリートである筈なのに劇薬でも振りかけたみたいに腐り落ちていた。毒タイプの技が強力でもここまでの事は出来ない気がする。
恐る恐るつま先でつついたらパラパラ…と風化したみたいに崩れ、陥没してしまった。小さな落とし穴みたいだ。

そしてその腐蝕は当然というべきなのか、抱える私の腕や胸にも移っていた。抱えた瞬間皮膚から骨、果ては臓腑まですごいスピードで侵食されそうになるのを気合い…とゆか、受け継いだ血で相殺する事で耐えた。
元々妖ってのはそれなりに頑丈だし私に限って言えば治癒力はめちゃくちゃな事になってるし。しかも今は幸い天気は雪。氷タイプなグレイシアには気分的にもテンションが上がる。なんとかなりそうな気さえしてくる。
(特性がアイスなボディならもっと良かったんだけど生憎私は何の変哲もない雪がくれなのだ)。


「おばあちゃんの『技』も受け継げてたら、良かったんだけどねー…」


余談になるが、おばあちゃんはその実どんな病気や怪我でもたちどころに癒す奇跡の手を持っていたらしいから。


「とりあえず…かけないよりは良いだろうし」


ふくふくにすら至ってない赤ちゃんに少しでも良くなるよう『癒しの鈴』なる技をかける。状態異常回復を味方全体、つまり他者にかける技。コレ、普通にしてたら覚えらんなかった技なんだけど前世、何と決戦などがあったから傷付く仲間を回復出来やしないかとそれこそ気合いでゲットした技だったりするのだ。

今思えば世界を越えていた副作用だったのだろう。こんなのんびりさんな私でもスペックが底上げされていたに違いない。それか世界の基準に合わさっていたか。
それでもレベルアップで覚えられるもんでもなかったから苦労した事に変わりはないんだけども。

この子。私がギョッとした理由は、自身にまでそのアリスが行き渡ってしまっていた事だった。

きっと赤ちゃんだからコントロール出来ないか、または制御不可な程に強すぎるのか。折角のお顔が変色というか、片端から痣だらけになってしまってるのだ。
きっと母親はそれもあってこの子を捨てたに違いない。

少しは効果があってくれたようで薄れた染みと少しだけ眉間の皺の取れた寝顔にホッとした。やっぱ赤ちゃんはこうでないとねすやすや寝ないとね。
それに私ポケモンだしねそれも例に漏れず人スキーな。人が苦しんでるのなんて見たくないし人が困ってたら無条件に助けたくなるといいますか。


「これも何かの縁だし…」


君のアリス何だかとっても大変そうだし。多分私が暫く…少なくともアリスの制御を覚えるまで近くにいれば無駄に命を散らす事はないんじゃないだろーか。パッと見だけど、自身にまでそのアリスが及んじゃやばそうな感じだし。

そもそもこのままでは私達仲良く凍死もしくは餓死だし。いやまあ前者はグレイシアを解いたらなんだけど。んで言ってるそばから解いちゃうワケなんですけども。
考えたらおくるみで隔たってるとはいえほぼじかでグレイシアって赤ちゃんにはまずいんじゃね…?って。(「気づくの遅くね?」って?…チクショウ私も思ってたよ!)。
だから、今度はほかほかとあったかいであろうブースターに早着替えという名の早変化してみた。忍者みたいだ。

それに、言ってなかったけど。


「綺麗な――懐かしい、色」


この子の髪ってば真っ黒で。漆黒の…そう夜の色だった。――前世の、大好きだったお母さんと同じ色。つまり初見で私ったら君をけっこう気に入っちゃった訳ですよ。痣でびっくりしちゃったから一目ではなくとも、薄れた今でそうだから二目惚れと言い換えてもよし。それは少なくともここで見捨てるのが忍びなくなるくらい。まあどちらにしても私は人を、それも赤ちゃんを見捨てる程ひどいヤツじゃないと思う。…の、筈…うん、思いたいな!
まだ瞳は見てないから何色かはわからない。

あ、あとけっこう綺麗な顔してるからきっと将来は美人さんじゃないかなーって思う!
一応言っておくと、ポケモンの顔の良し悪しは無論私には一発だけど人の基準は最初の真実ポケモンだった頃からの観察経験に因ってたりします。


「あのう、夜分遅くにすみません。私、山吹名前っていいます」


早速使った偽名もどき。
こうして私は、私達に気づいたここの人…警備員だかはたまた先生だかに連れられ、ついにアリス学園への扉をくぐったのである。

とりあえず、まずは粉ミルクを貰えればと思います。


◆◆◆


赤子には確かに光が視えた。アリス保持の証だ。
しかし同じく赤子であるという女児の光は――無い訳ではないが、ともすると本当にアリスかどうか疑ってしまいかねない程に微弱であった。文字通り風前の灯火。はっきり言って儚すぎる。
しかも、失礼な言い方ではあるが、その様は不気味でしかなかった。

児童と呼ぶには幼すぎる二名の写真。内、片方。
それ、…いやそれ“ら”を眺める。

まずどんより暗く光って見えた。まるで暗がりに浮かぶ人魂のような…火のアリスの子が肝だめしと称し浮かし遊んでいたのが思い出された。暗い所で見たら本当に幽霊の類いに見えなくもない。

しかしこの子の操る様々悉くは、どう見てもアリスなしに説明のつくモノではない。
まず写真の時点で赤子の物と10歳程の物。女児の写真はその二つが。しかもそれ以外にもその数実に九枚、今しがた届けられていた。そのため前述したように複数で称した。

九つの色とりどりと言う外ない被写体。それがオマケというか、極めつきの“動物姿”。
これがアリスでなくて何だと言うのか。

そんな年齢及び体質(それも一部ではなく全体)操作に始まり、火水雷はたまた念力など数々の潜在能力。そして万能ではないようだが、治癒。
……数までが異常である。


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