(突発)短編 | ナノ


『もしもイーブイさんが学アリに飛ばされたら。2』


四つ以上のアリス保持者は未だかつてお目にかかった事は無い。いくら力を使わせても枯渇しなかったという報告から、当然アリスストーンで誤魔化している筈もない。
まあ、どのアリスとも相性のよい者でもなければそれも無理な話だが。…それこそ結界の…あの子のように。

動物の姿を取れる。むしろ到底信じられる話ではないが、本当は人間ではなく元々動物だったという。(ポケモン?とかいう動物らしい。聞いた事がない)。
本人曰く『擬人化』。

そして数々のアリスを使う度……否、一度使用するアリスに合わせてなのか、事前に髪と瞳の色を変えてから臨むという――


「(一体何のアリスと呼べばよいのか)」


年齢操作と治癒は決定として、数々の潜在能力はそれぞれの名称で呼ぶかひっくるめるか。
(念力はさておき『自然現象』や、造語になるが『多属性』などはどうだろうか?)。

そして、あとは。


「(『擬人』というより、私達からすれば『擬態』に見えるのだがな…)」


しかし本人がそう言うのなら、そう呼ばせてやるのが一番良いのだろう。だからそれはまだ良いとして――

問題は。


「名も無き赤子、か…」


女児は生まれながらに全て、制御出来ていたという。それは勿論驚嘆に値する事ではあるが、同時に入学というこの縁だ。
いっそ此方の子供も生まれつきそうであったならと、無理がある話とはいえ、この子のあまりの未来を愁えてやまなかった。

その子は現在進行形で瘴気を振り撒き続けているという。

あのアリスでは自身を強固に守れるアリスを持つ者にしか任せられない。それか相殺するような……。
しかしそんな都合のいいアリスは中々見つかる物でも、者でもない。

……つまり今のアリス学園では、第一発見者である女児でしか、近づけられそうにない。

無論嬰児を差し向けるなど危ない事この上ないのだが、この女児、他者への効果が薄いだけで本人への治癒に於ては、いっそ何故それを周りへ飛ばせないのかと突っ込みたくなる程に強力なのだという。――というのは若干建前で、実のところ引き剥がそうとすると途端に動物姿になり威嚇してきたらしい。(因みにこの時は朱い何かだったらしい)。まさに毛を逆立てた…つまるところ、猫か何かのように。
…まあ九枚の写真の内そのように見えたのは薄紫色の子くらいしかいないように思ったが…。(他は何だか犬っぽかった。言うと『なんでや!』とツッコミに走るらしいので言わないが)。

それはともかく、この女児以外赤子に容易に近づけず様子見するしかないのが問題なのだ。いや様子見など生ぬるい。当面どころか、今のままではこの子を一生――地下牢にたった一人、幽閉するというのだから。
事実上の監禁である。

しかし周りの人間への危害を考えると外は疎か、ヘルパーに当たってもらう教員ですら……。


「(今はこの子……『山吹名前』に任せるしかないと言うのか)」


こんな、ほんの乳飲み子に任せなければならないなどどんな幸いだと言いたくなるが、報告によればこの女児は動ける身体さえあれば、つまりは少女姿になればごく普通に生活が――そう既に、赤子の世話が出来ていた。出来てしまっていた。…赤子の必ず通る、ハイハイや歩く練習を遙かにすっとばして。
訊けば「前にやった事がある」とあっけらかんと答えたという。…前とは何だ?まさか、前世を覚えているとでも言うのか。

到底信じられるような話ではないが、しかし、それも某かのアリスによるモノなのだろうか。…まさか、初等部校長のようなアリスが他にあるのか…?

憶測は尽きない。しかし、この女児ならば安全とまでは言えずとも、命に別状なく赤子に近づけるという事実は変わらない。
この子に任せる、協力してもらうしか結局のところ道は、ない。

アリスが見つかり次第という特性上“ここ”への新入生はいつの時代も季節はまばらである。そんな中偶然にも一般的な時期に入学する事となった新入生二人の書類を前に、現状以上の手の打てぬ学園延いては己自身に、歯噛みするしかなかった。




しかしそれから数年後、まさか自分の弟からまるで謀られたかのような、誂えられたかのようなアリスが見つかるという事は、今の自分には知る由も無かったのである。


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