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『え…ちょっと待って何してんの?ねえジョルノ、あれの説明ほしいんだけど。』
カプリ島の海岸に到着して何やらミスタがいそいそと準備を始めたと思ったら、いつの間にか彼の前にはなぜか食事とワインが並んでおり、手にはナイフとフォークが握られている。
「…何やってるんです?」
さすがのジョルノも理解できなかったらしい。一呼吸置いてから、今のこの状況で何をすべきかを懇切丁寧にミスタに説明し始める。私はそんなジョルノの様子をただ哀れみの目で見つめることしかできなかった。
「そうなったらもう男は捜せないんです。1分でも早く行動しないと…」
「だから昼休みなんだよ!昼メシ食わなきゃみんな働かねーんだ。いや…俺は違うよ?でもこいつらがその習慣覚えちまってよォー」
こいつら、とミスタが視線を落とした方に目をやると、爪先くらいの小さな「何か」がうごめいていた。
『うわ何それ。サラミ食べられてるよ』
「いいんだよ、これはこいつらのメシなんだからな!みんな自分の方がよく働くから自分だけはたくさん食う権利があると思ってんだ」
グチャグチャとサラミを食いちぎる「何か」は、パッと見虫みたいだけどよく見ると人の形をしている。
「…何なんですかそれ?全部で何匹いるんですか」
「匹?人って言えよ!ペットあつかいすると機げんが悪くなる」
どうやらこれら…いや彼らはミスタのスタンドらしい。全部で6人でNo.4は縁起が悪いからいないそうだ。
「今説得するからよ…ジョルノ!ビニール袋から無線機出してな!レイは双眼鏡で様子見てろよ!」
『はいよ、ただいま』
双眼鏡を手に取り港を眺める。やはりと言うべきか、予想以上に人は多く無線の男を特定するのは難しそうだ。
『ねえ、本当にそんな上手くいくかな?かなり計画練ってある辺り、相手は相当用心深そうだけど…』
「さあ…しかし、やってみないことには分かりません。この港のどこかにいるはずなんだ。」
ミスタは監視小屋に回り込めたらしい。ジョルノがズッケェロの名前で無線をかけて、その無線に出ようと小屋に向かって来る男を攻撃する寸法だけど…そんな人影は一向に現れない。
『やっぱり、用心して出ないんじゃ…』
《…どうかしたのか?ズッケェロ!》
「…!?」
無線に、出た。そんな人影は全く無かったのに。
《呼び出しなんかして…何か問題でも起こったのか?》
ジョルノがこちらに焦りの表情を向ける。すぐに双眼鏡に目を当て小屋を見ると、なんと既に男が小屋の中に入っているではないか。
『っ、まずいあの小屋、多分裏口がある。相手の顔は暗くて見えないし、ミスタは男に気付いてない!』
どうしよう、私のせいだ。私が見逃してしまった。このままじゃミスタが危ない。何としてでも、知らせなくては。
「レイ!?」
ジョルノが忍び声で制止するのを後に、波止場を一直線に駆け抜ける。何を勘違いしたのか、ミスタがゆっくりと小屋の入口に近づいて行くのが見えた。このままじゃ敵に逃げられるどころかその前にミスタがやられてしまう。相手は既に小屋の中にいる、窓のそばにいる。どうすれば伝わる?どうか、間に合って…
『ミスタ!小屋の中に!もういるの!!』
出来る限り声を張り上げ叫ぶ。その声に気付いたミスタがこちらに驚きの目を向けたその直後、小屋の無線からさらに大きな声が響く。
《ミスタうしろだァーッ!小屋の中にいるんだッ!》
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