プロローグ2




煌めく星々を眺めながら外国の街を散歩する。
今の状態を言葉にすればそりゃ聞こえはいいけど実際はそんな綺麗なもんじゃない。金なし、アテなし、知識なし。負の三拍子が揃った人間が異国の地で生きていけるほどこの世の中は甘くないのだ。目付きの悪い若者たち、路地裏に横たわるホームレス、チラホラ見かける注射器の残骸。この地の治安の悪さに勘づき始めてきた頃に嫌な予感は当たる。

「おーおー姉ちゃん1人かい?」
「へっ、こんな夜中に出歩くなんてよぉ〜、俺らみてえなのに絡まれちゃっても文句言えねえぞぉ?」

下品に笑いながら絡んでくる酔っ払いたちの酒臭い息が鼻にかかり思わず顔をしかめる。まずいぞ。この状況は非常にまずい。

『あー、すみません。ちょっとツレを待たせてるので』

明らかな口からでまかせでスルーしようとしても相手は男、肩をがっしりホールドされてしまえばなかなか引き剥がせない。

「そんなこと言わねえでよぉ〜、俺らイイもん持ってるからよぉ、一緒に遊ぼうや。」

肩を掴む力が強くなり、余計に逃げられなくなる。ニヤニヤと薄汚い笑いを浮かべる男がもう片方の手を広げるとそこには白い粉の入った小さな袋があった。

『…は?』
「これよぉ、1グラム50万リラするんだぜ。けど姉ちゃんが一晩相手してくれるってんなら安くしとくぜ?」

耳元で囁く男の熱い息に背筋がゾワッとする。こいつら本気で私がこんな得体の知れない粉を欲しいと思ってるのか。

『いや結構です、本当に。』

一刻も早くこの場を去らなくては。そう思うより先に体が動いていた。そう、勝手に動いていたのだ。

「うぉっ!?」

男を振りほどいて逃げようとしただけなのに。振りほどいた腕に当たった男は有り得ないパワーで殴られたかのように後ろに吹っ飛んで行った。

「なっ、なんだこれは…」

もう一人の男が唖然としたようにふっ飛ばされて気絶した男を目で追う。

「…ってめぇ、このクソアマァ!」

けどそいつはすぐに我に返って拳を握り大きく振り上げる。やばい、やられる。防御は間に合いそうにないので、痛みに耐える覚悟を決めて目をギュッと閉じた。

『…あれ?』

おかしい。なぜか拳が顔面に当たる感覚がしない。いや、もしかして痛みを感じる間もなくやられちゃったのか?

「くっ…クソッ!どうなってやがるんだッ!」

苛立ちの籠った男の声にハッとして恐る恐る目を開けると、そこには先程と同じ体勢のままプルプル震える男の姿があった。

『なに、これ』

否、正確には男が静止してるのではなくて、男と私の間にいる「何か」が男の拳を防御しているのだ。

『…てことは、あの時のアレも幻覚じゃあなかったのか。』

曖昧な、けれども確かな確信があった。おかしな話だけどこの状況を一瞬で理解したのだ。そう、きっとあの青年のそばに居た「何か」と目の前のコレは同じようなもので、多分今みたいな「お取り込み中」の時に使えるものなんだろうと。

『でもこういう時って普通さ、ヒーローみたいな人が助けに来てくれる展開だよね。』

意味がわからないという風にこちらを見る男を無視して手をグーパーしてみると、私の分身のような何かは寸分違わない動きをする。
まあでも、ヒーローなんて待たなくても自分で戦えるならそれに越したことはないか。

『てことで、ちょっと試し打ちさせてね。』

男の拳を押し切り頬にクリティカルヒットしたそれの威力は、護身用にしては少し強すぎる力を持て余していた。



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