プロローグ




人生で一度くらいは自分ではどうしようもない出来事というのが起こるものだと思う。
そう、例えば何かにつまづいて転んだ拍子にどこか知らない外国の街に放り出されてしまった今の状況がそんな感じだ。

『…はあ、参ったな。』

さっきまでは確かに日本の片隅にいたはずなのに。ここはまるで世界史の教科書で見たイタリアの街並みを彷彿とさせるような路地裏だ。

『交番…探さなきゃ。』

こんな状況ながら呟いた独り言は自分でも案外冷静だなんて思ってしまう。ピンチの時には頭が冴え渡る性質なのか、あるいは恐怖を押し殺し冷静さを装っているだけなのかと聞かれれば確実に後者であるのだが、今はそんなことはどうでも良い。重要なのはこの状況を何とかしなければならないということだからね。
それに普段大した恩義を感じないくせしてこんな時警察より頼もしい存在は無いと感じる図太い神経は相変わらず健在のようだし、うん、何も問題はない。そんなクズ脳みその勘を頼りにしばらく歩みを進めると、少し向こうに学校らしき建物と数人の人影を発見した。

『あのー、すみません。』

声を掛けたのはライターを持った青年…といっても同じ年頃の男の子だ。それと背の小さいおじいさん。けど少し遠かったのか声が小さかったのか私の声は聞こえてないらしい。

『あのー!すみま…』

「いや…そんなはずはない。『点火』なんてできるはずがない…」

思い切り息を吸い込んで叫びかけたものの、どうやら青年とおじいさんはお取り込み中のようで私は完全にアウトオブ眼中なようだ。話しかけてまた無視されるのも気に触るしかといって割り込んで邪魔する勇気もないので立ち去ろうとすると、視界の端にブワッと光る「何か」が見えた。

『うっわ、危な。』

その「何か」はどうやら青年の持つライターから吹き出した火らしい。やけに勢いよく燃えているそれは別にこちらに害を及ぼすほどの距離にはないのになぜか近付きがたさを感じる。

『…はあもういいや。違う人探そ…っ!?』

一瞬のことだった。来た道を戻ろうと足を踏み出したその瞬間、急に首が締め付けられる。

『っ、ぐっ、い、ぎが、できな……』

息苦しさで顔に血が集まり酸素が取り込めない。体はピクリとも動かなくて、段々と視界がぼやけてくる。

『っ、し、しぬっ…』

朦朧とした意識の中、朧な目で先程の青年に目をやると霞んだ視界に輝きを放つ得体の知れない何かが映った。なに、あれ。幻覚…?あはは、死ぬ間際に幻覚が見えるってのはあながち嘘じゃあないんだな…

それっきりだった。覚えているのはそこまで。
次に目が覚めた時にいたのは意識を失った場所であろう冷たい石畳の上。そして頭上を見上げると、雲ひとつない空に黄金色の星たちが輝いていた。


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