慟哭の先に  



「旦那、手合わせお願いしやす」

そう言った沖田くんの顔は、決意で固まっていた。凛としたその顔に、断ることさえ憚られ、頷いてしまう。そしてそのまま引きずられるようにして屯所につれていかれた俺は今、胴着を着て沖田くんと向かい合っていた。張り詰めた空気。沖田くんから感じる気迫。俺の記憶の中の沖田くんとはあまりにも違いすぎて、あまりにも愛しい。

「……旦那、いつでも来てくだせぇよ」

興奮から見せる歪んだ笑顔さえ愛しい。何が彼をこの短時間で変えたのだろうか。或いは俺が知らなかっただけで、もともとこういう一面もあったのかもしれない。あぁ、この沖田くんを見ていると、自分がかつて大事な人に剣の教えを請うていたときの頃を思い出す。沖田くんは守るために剣を振るえているのか。俺は今、守るために剣を振るえているのか。答えはわからない。わからないけど、

「うぉおおおおお!!」

今出来ることはただひとつ。竹刀が飛ぶ。と同時に沖田くんが飛ぶ。ふ、と笑ってやれば沖田くんは素早く竹刀を持ち直し俺に向かってきた。もはや、持っているものが違うだけで真剣のときとさほど変わらない動きをしているだろう。沖田くんが小さく笑った。瞬間、沖田くんは先程とは比べ物にならないくらいのスピードで詰めてきた。

「……っ、」
「旦那ァ。俺決めたんでィ。



旦那を守るためにもっと強くなるって」

ドゴォンという鈍い音とともに俺の体が吹き飛ぶ。壁に叩きつけられ、痛みに堪えていると沖田くんは竹刀を下ろし、少しずつ近づいてきた。

「今の旦那にゃあ守りなんていらねぇでしょうが、そのうち越えてみせやすよ」

笑いながら近づく沖田くんに俺も口の端を上げる。

「あ、そう。じゃあそんな沖田くんに助言ね」

バッと顔を上げ飛び出す。突然の出来事に対応しきれず沖田くんは中途半端な体制のまま俺に吹き飛ばされた。

「完全に決着がつくまで、剣は下ろしちゃダメ。いくら相手が知人だろうとな。」

基本だろ?そう言うと沖田くんはハハッと心底おかしそうに笑いを溢す。

「やっぱ旦那はすげぇや」

そうして俺たちは再び竹刀を構えた。


End



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